達人が伝授!2002しし座流星群攻略法流星痕編解説◎比嘉義裕(流星痕同時観測キャンペーン事務局) |
流星痕の撮影は短時間露出で充分なので、月を写野にさえ入れなければ、月明かりの影響は受けにくい。満月近い月明かりのある今年のしし座流星群では、流星痕の撮影にトライしてみてはいかがだろう? 運と若干の心得があれば、作例のようなみごとな流星痕写真をゲットできることだろう。ここはひとつ、世界最強の流星痕観測グループである「流星痕同時観測キャンペーン」の方々に、流星痕撮影のノウハウを伝授していただこう。 |
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流星痕(りゅうせいこん)とは、流星が出現した後に現れる”光る雲のようなもの“のことで、とくにマイナス3等級以上の火球にともなうことが多い。数秒から数分、まれに1時間にもわたって輝き続ける。くねくねとうごめき変化していくさまは、”天駆ける竜“のごとし。魅力たっぷりの現象だ。 ところが、流星痕には未だ解明されていないことが多い。まず、どのようにして光っているのかわからない。その姿も、すぐに消えたり拡散してしまうし、流星痕が現れる高度の大気の流れによってどんどん変化してしまうので、とくに出現した直後(30秒以内)のフレッシュな姿を克明にとらえた例は少ない。 しし座流星群は、流星痕を撮影するチャンスである。しし座流星群の流星は、大気に突入してくるスピードが秒速約71キロメートルと速く、流星痕が出現しやすいのだ。流星痕の撮影用にカメラを用意して待ち構え、火球が出たらすばやくカメラを向けてシャッターを切る。通常の星野写真とはひと味違うスポーツ感覚で、”天駆ける竜“の撮影にチャレンジしよう。 |
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■フィルムと露出時間について 流星痕の撮影には、ISO3200や1600などの超高感度フィルムを使い、さらに数倍増感する。フジのスペリア1600(写真左)は、カラーフィルムなので流星痕の色情報を得られるが、4倍(EI6400)以上の増感処理は現像所では対応できない。画質も研究用と割り切るならともかく観賞用としては物足りない可能性がある。コダックT−MAX P3200(写真右)は、超高感度フィルムとしては粒状性が良好で、短時間露出と強拡大撮影で流星痕の微細構造を撮影できるが、モノクロフィルムなので色情報は得られない。増感処理は、4倍(EI12800)までは現像所に依頼でき、自家現像ならそれ以上も可能だ。 レンズF2.8なら、2秒露出でEI6400、1秒露出でEI12800がおよその適正露出になる。フィルム・増感処理・レンズF値・露出時間の組み合わせの最終判断は読者にお任せするが、流星痕の微細構造を解明するためには、望遠レンズで、かつできるだけ短い露出時間で撮影しておく必要がある。 また、フィルムの1コマ目は必ず、明るい対象を「から撮り」するか、星空を1分程度の露出時間で固定撮影しておく。ネガに“決めゴマ”がないと、DP店のプリント機がネガを読み込めず、プリントできない恐れがあるからだ。 【参考】増感後のフィルム感度・レンズF値・露出時間の対応表
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撮影できそうな明るい流星痕は、2002年11月18日夜から19日にかけての一晩だけでも、日本上空に数個程度は出現しそうだ。撮影のコツと心得を知っておこう。 |
ステップ1 シュラフに入らずスタンバイ 撮影機材は、すぐに飛びつけるよう、近くに置いておくこと。夜露を避けるため、カメラを水平に向けておく。レンズのピントや絞りを、知らずに動かしていることがあるので、まめにチェックするか、テープなどで固定しよう。 流星痕は空のどこに現れるかわからない。一人で全天をカバーするなら、寝転がるのがよいだろう。複数人ならカバーする方向をあらかじめ決めておく。流星痕が現れたら俊敏に行動するため、シュラフは使用しない。なので、防寒対策は怠らないこと。 |
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ステップ2 流星痕出現、カメラに飛びつけ! 火球が出現したら、その跡にモヤモヤしたものが残っていないかよく見よう。流星痕が出現していたら行動開始だ。 ストロボをたかれたのと間違えるほどに明るい大火球ならともかく、マイナス3等級程度の流星では、背後に出現したら気がつかないこともある。仲間といっしょのときは、「出たぁ!」などと声を出しお互いに伝えよう。同時にテープレコーダを作動させて時刻の記録も開始する。ただしあまり大声を張り上げて周辺住民の迷惑になることのないように。 |
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ステップ3 カメラを向けてすばやく撮影 三脚の雲台をできるだけすばやく操作し、カメラのファインダーに流星痕を導入する。流星痕にカメラを向けたらレリーズでシャッターを切り撮影をリズミカルに繰り返す。 |
撮影時刻をしっかり記録 撮影中の記録事項は、火球出現時刻(秒まで正確に)、火球光度、出現星座、流星痕撮影時刻(秒まで正確に)だ。刻々と変化する流星痕を撮影しながらこれらを記録するには、テープレコーダを用いるのが最も簡便だ。「録音しっぱなし」「ビデオで自分を撮り続ける」などでもよい。録音しっぱなしにすれば確実に火球の出現時刻を記録できるし、録音操作ミスの可能性も減らせる。しかし一晩中録音し続けるというのは、それはそれで大変だ。自らの能力に合わせ、確実に記録を取れる方法を検討しておこう。 |
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下のCGは、2001年11月19日に観測された流星痕「佐久」の立体構造。2001年11月19日1時47分24秒に出現した-8等級の火球に伴い、長野県佐久市上空に現れた。半径250km圏内の23地点から撮影された最大級の永続痕である。地図中のA・B・C各地点では、鈴木智氏、石塚洋一氏、武田康男氏による撮影が成功し、出現後約15秒の高分解能画像が得られた。これらの写真を用いた立体解析から、出現高度88〜92km、胴回り400m、全長18kmに及ぶ壮大な「天駆ける竜」を3次元CG化することに成功した。
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流星痕同時観測キャンペーン事務局とは、小学生のときから流星痕の不思議さに心を奪われた戸田と、流星痕の謎の究明を志した山本が、運命的に出会い、1998年に発足したチームだ。地道な観測普及活動の結果、2001年しし座流星雨では世界に例のない大量の流星痕画像を得た。現在のメンバーは4名。流星痕の観測例を広く集めている。 事務局ではとくに多地点同時観測の情報を求めている。同じ流星痕を複数の地点から撮影すると、三角測量の要領で、その流星痕の出現高度を検出でき、立体構造の解析にも役立てることができるのだ。多くの写真が、流星痕同時観測キャンペーン事務局に寄せられれば、このような同時観測例が成立することだろう。さらに、同じ流星痕でも撮影地が違うと、必ずその姿が異なって見えるのだ。2つとないみなさんの貴重な観測結果を、流星痕同時観測キャンペーン事務局にお送りいただきたい。 |
星ナビ2002年11月号 流星痕同時観測キャンペーン METRO Campaign |