タイトル達人が伝授!2002しし座流星群攻略法

流星痕編

解説◎比嘉義裕(流星痕同時観測キャンペーン事務局)


流星痕の撮影は短時間露出で充分なので、月を写野にさえ入れなければ、月明かりの影響は受けにくい。満月近い月明かりのある今年のしし座流星群では、流星痕の撮影にトライしてみてはいかがだろう? 運と若干の心得があれば、作例のようなみごとな流星痕写真をゲットできることだろう。ここはひとつ、世界最強の流星痕観測グループである「流星痕同時観測キャンペーン」の方々に、流星痕撮影のノウハウを伝授していただこう。
くわしくは月刊星ナビ2002年11月号をごらんください。

■流星痕とは■

流星痕(りゅうせいこん)とは、流星が出現した後に現れる”光る雲のようなもの“のことで、とくにマイナス3等級以上の火球にともなうことが多い。数秒から数分、まれに1時間にもわたって輝き続ける。くねくねとうごめき変化していくさまは、”天駆ける竜“のごとし。魅力たっぷりの現象だ。

ところが、流星痕には未だ解明されていないことが多い。まず、どのようにして光っているのかわからない。その姿も、すぐに消えたり拡散してしまうし、流星痕が現れる高度の大気の流れによってどんどん変化してしまうので、とくに出現した直後(30秒以内)のフレッシュな姿を克明にとらえた例は少ない。

しし座流星群は、流星痕を撮影するチャンスである。しし座流星群の流星は、大気に突入してくるスピードが秒速約71キロメートルと速く、流星痕が出現しやすいのだ。流星痕の撮影用にカメラを用意して待ち構え、火球が出たらすばやくカメラを向けてシャッターを切る。通常の星野写真とはひと味違うスポーツ感覚で、”天駆ける竜“の撮影にチャレンジしよう。

流星痕
しし座流星群の流星に伴う流星痕
撮影/比嘉義裕(2000年撮影)


■必要な機材■

撮影準備

 

一眼レフカメラ 自動巻上げだと撮影がスムーズ
レンズ F2.8よりも明るい望遠レンズが適
レリーズ ブレ防止に必須
三脚 自由雲台か1グリップ式雲台付のもの
テープレコーダ 撮影時刻の記録に
時計 秒まで正確に合わせておく

フィルム選び■フィルムと露出時間について

流星痕の撮影には、ISO3200や1600などの超高感度フィルムを使い、さらに数倍増感する。フジのスペリア1600(写真左)は、カラーフィルムなので流星痕の色情報を得られるが、4倍(EI6400)以上の増感処理は現像所では対応できない。画質も研究用と割り切るならともかく観賞用としては物足りない可能性がある。コダックT−MAX P3200(写真右)は、超高感度フィルムとしては粒状性が良好で、短時間露出と強拡大撮影で流星痕の微細構造を撮影できるが、モノクロフィルムなので色情報は得られない。増感処理は、4倍(EI12800)までは現像所に依頼でき、自家現像ならそれ以上も可能だ。

レンズF2.8なら、2秒露出でEI6400、1秒露出でEI12800がおよその適正露出になる。フィルム・増感処理・レンズF値・露出時間の組み合わせの最終判断は読者にお任せするが、流星痕の微細構造を解明するためには、望遠レンズで、かつできるだけ短い露出時間で撮影しておく必要がある。

また、フィルムの1コマ目は必ず、明るい対象を「から撮り」するか、星空を1分程度の露出時間で固定撮影しておく。ネガに“決めゴマ”がないと、DP店のプリント機がネガを読み込めず、プリントできない恐れがあるからだ。

【参考】増感後のフィルム感度・レンズF値・露出時間の対応表

フィルム感度/F値 F2.0 F2.8 F4.0
ISO800 8秒 - -
ISO1600 4秒 8秒 -
ISO3200 2秒 4秒 8秒
ISO6400 1秒 2秒 4秒
ISO12800 (1/2秒) 1秒 2秒

実際の撮影に関しては、レンズの焦点距離により制約がかかります。
露出時間がかかりすぎると、痕が流れて写ってしまいます。
以下に限界露出時間をしめします。

広角〜50mm:最大8〜4秒
50〜85mm :最大4〜2秒
100〜200mm:最大2秒
200mm〜  :1秒を推奨
300mm〜  :1秒以下

※感度12800&F2.0&0.5秒の組み合わせは、未経験です。
※感度12800&F4&2秒の組み合わせは、未経験です。

 


■流星痕撮影のコツと心得■

撮影できそうな明るい流星痕は、2002年11月18日夜から19日にかけての一晩だけでも、日本上空に数個程度は出現しそうだ。撮影のコツと心得を知っておこう。
シュラフに入らずスタンバイ

ステップ1 シュラフに入らずスタンバイ

撮影機材は、すぐに飛びつけるよう、近くに置いておくこと。夜露を避けるため、カメラを水平に向けておく。レンズのピントや絞りを、知らずに動かしていることがあるので、まめにチェックするか、テープなどで固定しよう。

流星痕は空のどこに現れるかわからない。一人で全天をカバーするなら、寝転がるのがよいだろう。複数人ならカバーする方向をあらかじめ決めておく。流星痕が現れたら俊敏に行動するため、シュラフは使用しない。なので、防寒対策は怠らないこと。

流星痕出現、カメラに飛びつけ!

ステップ2 流星痕出現、カメラに飛びつけ!

火球が出現したら、その跡にモヤモヤしたものが残っていないかよく見よう。流星痕が出現していたら行動開始だ。

ストロボをたかれたのと間違えるほどに明るい大火球ならともかく、マイナス3等級程度の流星では、背後に出現したら気がつかないこともある。仲間といっしょのときは、「出たぁ!」などと声を出しお互いに伝えよう。同時にテープレコーダを作動させて時刻の記録も開始する。ただしあまり大声を張り上げて周辺住民の迷惑になることのないように。

カメラを向けてすばやく撮影

ステップ3 カメラを向けてすばやく撮影

三脚の雲台をできるだけすばやく操作し、カメラのファインダーに流星痕を導入する。流星痕にカメラを向けたらレリーズでシャッターを切り撮影をリズミカルに繰り返す。
 撮影時、テープレコーダにシャッター音を録音することで、あとで撮影時刻を同定できる。シャッター音は小さいので、レリーズと同時に「カシャ」とか「パシャ」と声を出しておくのもよい方法だ。
 流星痕が見えなくなっても数コマは撮影しておくこと。経験上、肉眼で見えなくなってもフィルムには写る可能性があるからだ。


撮影時刻をしっかり記録

撮影中の記録事項は、火球出現時刻(秒まで正確に)、火球光度、出現星座、流星痕撮影時刻(秒まで正確に)だ。刻々と変化する流星痕を撮影しながらこれらを記録するには、テープレコーダを用いるのが最も簡便だ。「録音しっぱなし」「ビデオで自分を撮り続ける」などでもよい。録音しっぱなしにすれば確実に火球の出現時刻を記録できるし、録音操作ミスの可能性も減らせる。しかし一晩中録音し続けるというのは、それはそれで大変だ。自らの能力に合わせ、確実に記録を取れる方法を検討しておこう。

撮影時刻をしっかり記録
観測終了後、余裕(翌日の朝など)ができたら録音を聞き直す。火球光度、出現星座はすぐにわかる。録音した時刻からさかのぼれば、流星痕撮影時刻がわかる。スタート時までさかのぼれば火球出現時刻も割り出すことができる。


■世界初、流星痕の3次元化に成功!■

下のCGは、2001年11月19日に観測された流星痕「佐久」の立体構造。2001年11月19日1時47分24秒に出現した-8等級の火球に伴い、長野県佐久市上空に現れた。半径250km圏内の23地点から撮影された最大級の永続痕である。地図中のA・B・C各地点では、鈴木智氏、石塚洋一氏、武田康男氏による撮影が成功し、出現後約15秒の高分解能画像が得られた。これらの写真を用いた立体解析から、出現高度88〜92km、胴回り400m、全長18kmに及ぶ壮大な「天駆ける竜」を3次元CG化することに成功した。

流星痕「佐久」の立体構造
流星痕「佐久」の立体構造。薄いチューブ状の構造と考えられる。

多地点同時観測
複数の地点で同時に撮影した写真からは、三角測量の要領で立体構造の解析が可能だ。


■流星痕同時観測キャンペーン事務局とは■

流星痕同時観測キャンペーン事務局とは、小学生のときから流星痕の不思議さに心を奪われた戸田と、流星痕の謎の究明を志した山本が、運命的に出会い、1998年に発足したチームだ。地道な観測普及活動の結果、2001年しし座流星雨では世界に例のない大量の流星痕画像を得た。現在のメンバーは4名。流星痕の観測例を広く集めている。

事務局ではとくに多地点同時観測の情報を求めている。同じ流星痕を複数の地点から撮影すると、三角測量の要領で、その流星痕の出現高度を検出でき、立体構造の解析にも役立てることができるのだ。多くの写真が、流星痕同時観測キャンペーン事務局に寄せられれば、このような同時観測例が成立することだろう。さらに、同じ流星痕でも撮影地が違うと、必ずその姿が異なって見えるのだ。2つとないみなさんの貴重な観測結果を、流星痕同時観測キャンペーン事務局にお送りいただきたい。


■関連リンク■

星ナビ2002年11月号
「“天駆ける竜”流星痕を狙え!」では流星痕の作例写真を豊富に掲載している。

流星痕同時観測キャンペーン METRO Campaign
流星痕の同時観測についてくわしく書かれている。