木星トロヤ群小惑星探査機「ルーシー」、打ち上げ成功

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10月16日、NASAの小惑星探査機「ルーシー」が打ち上げられた。2027年以降に木星のトロヤ群小惑星を初めて探査する。

【2021年10月20日 NASANASA Blogs - Lucy Mission

日本の「はやぶさ」などのように小惑星を訪れた探査機は数多くあるが、NASAの「ルーシー」はその中でも木星の軌道上にある「木星トロヤ群小惑星」を目標とする初めての探査機だ。ルーシーは1974年にエチオピアで発掘された猿人女性の化石に付けられた名前でもある。化石のルーシーが人類の起源を象徴する存在として世界中で有名になり、人類の進化の理解に革命をもたらしたのと同様に、探査機のルーシーも、小惑星の形成と太陽系の進化について新たな情報を明らかにすると期待される。

ルーシーを搭載したULA(ユナイテッド・ローンチ・アライアンス)のアトラスV401ロケットは、日本時間10月16日18時34分に米・フロリダ州ケープカナベラル空軍基地から打ち上げられた。打ち上げから約1時間後、ルーシーはロケットの第2ステージから分離され、その約30分後に幅約7.3mの2つの巨大な太陽電池パネルを展開した。

探査機「ルーシー」の打ち上げ中継録画(提供:NASA Kennedy Space Center)

探査機の動作は正常で安定しており、2枚の太陽電池パネルによる充電も進んでいる。テレメトリーデータによれば、片方の太陽電池パネルが完全に展開されておらず、固定されていない可能性があるとのことだ。運用に支障はないものの、運用チームは船体データを分析してパネルの完全な展開を目指している。

太陽電池パネルを展開した「ルーシー」の想像図
太陽電池パネルを展開した「ルーシー」の想像図(提供:NASA Goddard YouTube

ルーシーが目指す木星トロヤ群とは、木星軌道上で木星の前方60度と後方60度を中心に散らばっている一群の小惑星を指す。探査の対象となるのはそのうち5つ(+いくつかの衛星)で、さらに火星軌道と木星軌道の間に広がる小惑星帯の中の小惑星1つも探査する。

ルーシーはこれから2022年と2024年に地球スイングバイを実施して木星の方向へ加速し、2025年に小惑星帯の天体「ドナルドジョハンソン((52246) Donaldjohanson)」に接近して探査を行う。そのあと木星前方のトロヤ群に到着し、2027年に「エウリバテス((3548) Eurybates)」とその衛星「ケータ(Queta)」、および「ポリュメーレー((15094) Polymele)」、2028年に「レウコス((11351) Leucus)」と「オルス((21900) Orus)」の探査を行う。その後地球へ戻る軌道を通り、2031年に3回目の地球スイングバイを行って再び木星軌道へと向かい、木星後方のトロヤ群の「パトロクロス((617) Patroclus)」とその衛星「メノイティオス(Menoetius)」の探査を2033年に行う。全ての探査終了後、ルーシーは地球近傍と木星トロヤ群の間を往復するような軌道を数十万年にわたって飛行し続ける。

小惑星
ルーシーが探査する小惑星の想像イラスト。パトロクロス(上左)とメノイティオス(上中)は二重小惑星と見なされることもある(提供:NASA/Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab

小惑星の位置
ルーシー打ち上げ時の、探査目標となる小惑星の位置。ドナルドジョハンソンは火星移動と木星軌道の間の小惑星帯、パトロクロスは木星の後方(この図で惑星は反時計回りに公転している)60度にあるトロヤ群、残り4つは木星の前方60度のトロヤ群に位置する(ステラナビゲータで星図作成)

探査機ルーシーに名を与えた化石人骨のルーシーも、元はビートルズの楽曲「Lucy In The Sky With Diamonds」にちなんで名付けられた。「最初の木星トロヤ群小惑星への到達までにまだ数年かかりますが、これらの天体は待つに値するだけの非常に大きな科学的価値があります。まさしく空に輝くダイヤモンドです」(ルーシー主任研究員 Hal Levisonさん)。