電波望遠鏡から次世代通信まで役立つ、誘電率測定の新技術

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ミリ波領域で使われる材料の特性を高い精度で測定する手法が国立天文台で開発された。電波望遠鏡の受信機やポスト5Gの通信デバイス開発にも役立つ技術だ。

【2023年8月16日 国立天文台先端技術センター

電波望遠鏡では、天体からの電波をアンテナから受信機へ導く途中で、可視光線の光学機器と同じように電波を集めたり進行方向を変えたりするレンズ類を使うことがある。レンズの素材にはプラスチックなどの、電気を通さない「誘電体」が使われる。

誘電体に電場をかけても電流は流れないが、誘電体の原子・分子が持つ電子が偏ることで誘電体内を通る電場が弱められる「誘電分極」という現象が起こり、この分極の度合いを「誘電率」という量で表す。電波用レンズの屈折率は素材の誘電率で決まるため、誘電率を正確に測定する技術は電波望遠鏡の開発にとって大事だ。また天文学以外の分野でも、通信機器の材料や電波を通す建材などの誘電率を測定する技術には大きなニーズがある。

物質の誘電率を測定する方法には、材料を「共振器」という装置に入れて測定する「共振器法」や、何もない空間にシート状の材料を置き、電波を入射させて測定する「自由空間法」がある。しかし、共振器法では測定材料の精密加工が必要で、特定の周波数での誘電率しか測れないという難点がある。一方の自由空間法も、測定結果の解析にどうしても近似が必要で、正確さに欠ける欠点があった。

国立天文台先端技術センターの坂井了さんをはじめとする、国立天文台と情報通信研究機構の共同研究チームは、電磁波の伝搬過程を計算する手法を工夫することで、自由空間法で近似を使わず厳密に誘電率を求める新たな解析アルゴリズムを開発した。

誘電率の測定
自由空間法による誘電率の測定の様子。測定したいサンプルを楕円面ミラーの間に置き、一方のホーンアンテナからミリ波をサンプルに入射して、その透過特性をベクトルネットワークアナライザで測定することで誘電率を求める(提供:国立天文台、以下同)

坂井さんたちが新しい解析手法の精度を検証したところ、従来の方法に比べて誤差を約100分の1に低減できたという。また、アルマ望遠鏡のために開発されている受信機のレンズ材料候補を実測し、結果が他の測定手法と正しく一致することも確認した。

従来の測定手法との比較
共振器法・従来の自由空間法・今回開発された手法による、材料の誘電率測定結果。新たな解析法は誤差が小さく、広い周波数範囲にわたって連続的に誘電率を測定できる

今回の新たな手法によって、ミリ波(テラヘルツ帯)を扱う光学材料の誘電率を広い周波数帯域で連続的に高精度で計測できるようになる。これは電波天文学だけでなく、通信などの幅広い分野で開発のスピードアップやコスト削減につながる。

「自由空間法は他の測定手法と比較して、測定試料の形状に対する制約が小さく、測定周波数帯を拡張することも容易です。今回開発した技術は、電波望遠鏡の部品設計に限らず、ミリ波/テラヘルツ帯を利用する次世代通信網(Beyond 5G/6G)の実現に向けた、高周波材料やデバイス開発への貢献が期待されます」(坂井さん)。

研究成果のイメージイラスト
今回の研究成果のイメージイラスト

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