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星ナビ news file 2004年6月号

エッジワース・カイパーベルトよりも
遠方の天体が発見された

2003 VB12は内部オールト雲天体か?

想像図

2003 VB12 想像図 [提供:NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (SSC-Caltech)]

解説 : 木下大輔(日本学術振興会特別研究員)

※この記事は星ナビ2004年6月号に掲載されたものです。

カリフォルニア工科大学の Brown 、ジェミニ天文台の Trujillo 、イェール大学の Rabinowitz らのグループは、パロマー山天文台の口径 1.26 メートル Samuel Oschin シュミット望遠鏡と QUEST 広視野カメラを用いて太陽系外縁部の探査を進めている。 2003 年 11 月 14 日の観測から、彼らは非常にゆっくりと移動する天体を見つけた。そのみかけの動きは、一時間あたりわずかに1.5 秒角。典型的なエッジワース・カイパーベルト天体でも一時間に 4 秒角程度動くのだから、エッジワース・カイパーベルトよりも二倍程度遠方、太陽から約 100 天文単位の距離にある天体だと予想された。精密な軌道決定のためには、長期間に渡る天体の位置測定のデータが必要である。みかけの明るさは 21 等級程度と比較的明るかったので、発見後の追跡観測に加え、発見前に撮られている画像にも偶然写り込んでいることが十分期待された。実際、 Palomar-QUEST サーベイや NEAT skymorph データベースをあたることにより、三年以上にわたりこの天体の位置が得られた。それらから得られた軌道は、軌道長半径 532 天文単位、離心率 0.857 、軌道傾斜角 11.9 度、現在の日心距離は 89 天文単位という驚くべきものだった。

2003 VB12の軌道 1 2003 VB12の軌道 2 2003 VB12の軌道。海王星(30天文単位)やエッジワース・カイパーベルト天体よりもはるか遠方をめぐる(提供:Chad Trujillo、NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (SSC-Caltech))

2003 VB12 という仮符号が与えられたこの天体の一番の特徴はその軌道である。軌道長半径と離心率が大きなエッジワース・カイパーベルト天体は多数見つかっているが、それらと 2003 VB12 とは決定的に異なる点がある。それは近日点距離である。軌道長半径や離心率の大きなエッジワース・カイパーベルトの多くは、その近日点距離が海王星軌道付近にある。以前、海王星との相互作用により軌道を変えられてしまったのだと考えられている。しかし、 2003 VB12 は近日点距離が 76 天文単位とこれまで知られている天体と比べ非常に大きい。このことは 2003 VB12 が単純に海王星によりはじき飛ばされたのではないことを示唆している。この点から 2003 VB12 はエッジワース・カイパーベルト天体と考えるよりも、内部オールト雲天体だととらえる方がいいのかもしれない。

Brown らは、 2003 VB12 の軌道の起源として三つの可能性を示している。

(1) は 70 天文単位付近に未知の惑星があれば 2003 VB12 の軌道が説明できると考える。 (2) は数百天文単位にまで近づく一回の恒星遭遇を経験していれば 2003 VB12 の存在が説明可能だとするモデルである。 (3) は太陽が星団の一つの星として形成され、若いうちに何度も恒星遭遇を経験したのだとすると、 2003 VB12 の存在も矛盾なく受け入れられるとする考えである。現在のところ、まだどのモデルが正しいのか結論を出すことはできない。しかし、それぞれのモデルはエッジワース・カイパーベルトよりも遠方の天体の軌道分布について異なる描像を描く。つまり、今後、 2003VB12 のような天体がさらにいくつか見つかってきた際に、その軌道分布はどのモデルが正しいのかをチェックするために重要なのである

2003 VB12と他の天体との比較 2003 VB12と他の天体とのサイズ比較(提供:NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (SSC-Caltech))

2003 VB12 は、その大きなサイズも話題になった。意外に思われるかもしれないが、太陽系内の小天体のサイズを決定することは、そんなに容易なことではない。地上での可視光の観測では、大気の影響から天体の大きさを見積もることができないのである。可視光での太陽の反射光と、赤外線あるいは電波での熱輻射を同時に観測し、熱収支を考慮することによりサイズを見積もる。 Brown らは、口径 30 メートルの電波望遠鏡 IRAM と、 Spitzer 宇宙望遠鏡を用いて熱輻射をとらえようとした。いずれも望遠鏡でも熱輻射は検出されなかったが、これらの観測から天体の大きさの上限値を求めることができ、 2003 VB12 は直径 1800 km 以下であることが分かった。このように大きな天体が内部オールト雲に存在するということはオールト雲の質量の推定に際し重要である。また、この天体の組成は分からないものの、火星に次いで非常に赤い天体だということが指摘されている。さらに、衛星が存在するかもしれないとも考えられている。

2003 VB12 は、これまでに発見されていなかった新しい種類の天体であると思われる。その存在は、理論的な研究にも観測的な研究にも大きな課題を与えている。

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