アマチュアが世界初のペルセウス座流星体による月面衝突閃光を観測、
日本初となる月面衝突閃光の同時観測に成功

日本天文学会春季年会で観測成果を発表

【2005年3月26日 星ナビニュースリリース】

●ポイント

●概要

 『月刊 星ナビ』(*1)の2004年11月号の特集記事「月面の閃光をとらえろ しし座流星群の月面衝突発光を監視しよう」の内容に関連するアマチュアの観測成果が、3月28日から明星大学(東京都日野市)で開かれる日本天文学会2005年春季年会で発表される。

 電気通信大学・情報通信工学科の柳澤正久教授と、長野工業高等専門学校の大西浩次助教授は、2004年8月上旬から中旬にかけてのペルセウス座流星群の活動期間中に、月面の夜の部分に流星体が衝突して発光する「月面衝突閃光」(*2)を地球から観測できる可能性があることを指摘し、『月刊 星ナビ』のウェブサイト「星ナビ.com」等を通して全国のアマチュアに観測を呼びかけた。その結果、両氏のもとへ寄せられた報告のうち、2004年8月12日3時28分27秒に観測された閃光については、愛知県立一宮高校・地学部(指導/高村裕三朗教諭)が長野県小川村天文台との共同観測で発見し、その後、滋賀県にあるダイニックアストロパーク天究館友の会をはじめとする5箇所の観測点で同時刻に観測されていることから、これが観測者に近い大気中での現象や人工衛星が太陽光を反射したものではなく、間違いなく月面で発光した現象であることが確定的となり、月面衝突閃光としては日本初の同時観測例、ペルセウス座流星群の月面衝突閃光としては世界初の同時観測例となった。

 この閃光は、星の明るさに換算すると約9等級で、閃光の継続時間は約1/30秒であった。この観測結果から、流星体のもっていた運動エネルギーの2×10-3が可視光のエネルギーに変換されたと仮定して計算した流星体の質量は約20gであること、センチメートルサイズの流星体の密度が10-11個/km3であること、月面ではダスト衝突のZHR(衝突角度の補正をした1時間あたりの衝突数)が約10000個に達していたこと、閃光の残光が高温液滴の熱放射モデルで説明できること、などがわかってきたという。

 現在発売中の『月刊 星ナビ』2005年4月号には、今回の学会発表に関連してアマチュアの活躍を紹介しており、愛知県立一宮高校・地学部が撮影した2004年8月12日3時28分27秒の閃光の画像を掲載している。

●背景

 いつ、月面のどこで起こるかわからない一瞬の現象を、長時間監視してとらえることは困難であることから、これまで月面衝突閃光であることが確定的な観測例は世界的に見ても少ない。1999年11月には、アメリカ合衆国、メキシコ、日本などから、しし座流星体の衝突による閃光が初めて観測されたが、ペルセウス座流星体の衝突による閃光はこれまで報告されたことがなかった。

 近年のしし座流星群のブームは、2001年11月19日未明の日本での大出現を最後に一段落したが、このとき多くの人が流星雨を目撃できたのは、しし座流星群がいつ・どこでピークを迎えるのか、流星群をもたらすダストの空間分布(細長く伸びた形状をしており「ダスト・トレイル」と呼ばれる)の軌道計算によって、地球と交差する日時が事前に予報され、それがほぼ的中したからである。しし座流星群をもたらすダスト・トレイルの軌道が高精度で計算できるようになったことで、同じ計算手法をペルセウス座流星群にも適用し、流星群の出現だけでなく、月面衝突閃光についてもその可能性が高い時間帯を予想できるようになった。

 監視すべき月面の範囲は、ダストが衝突する側、かつ月面の夜の部分(月の満ち欠けの欠けた側)のうち、地球から見える部分とされ、時間的にだけでなく空間的にも注目すべき範囲が限定された。3時28分27秒に観測された月面衝突閃光も、まさにこの範囲内にあった。

 多数のアマチュアがこの観測に注目できたのは、こうした事前の予報に加え、微弱な閃光を撮影できる超高感度CCDカメラが普及したことで口径20cmクラスの天体望遠鏡で観測可能になったことなど、アマチュアが取り組みやすい環境が整備されてきたという背景がある。

●用語の解説

*1 月刊 星ナビ

株式会社アストロアーツ発行の月刊誌。2000年11月創刊、毎月5日発売。2005年1月号(創刊50号)で誌面をリニューアルし、天文現象の解説や全国の天文関係のイベント情報を充実させたほか、多数のアマチュアが参加して成果を上げている分野や、比較的簡単な機材で取り組める分野を積極的に取り上げ、天体観測に取り組むアマチュアの裾野を広げる編集方針を打ち出している。公式ウェブサイト「星ナビ.com」でも関連情報を掲載、自社で運営するオンラインショップで観測機材の販売も行なうなど、アマチュアの天体観測を総合的にサポートしている。

*2 月面衝突閃光 Lunar Impact Flash

流星体が月面に高速で衝突して発光する現象のこと。ここで言う流星体とは、宇宙空間で彗星から放出され、流星群の母体となる流星ダストと似た楕円軌道をもつ、粒径数10cm以上の大粒のダストを想定している。流星は地球大気内の発光現象(地球大気に超高速度で飛び込んでくる宇宙の微小粒子が大気との摩擦で蒸発し、高温ガスあるいはプラズマとなって発光する現象)であるが、月面衝突閃光は大気の無い月面に、ダストが高速度で衝突するときに衝突エネルギーが解放されて発光する現象であると考えられており、流星とは異なる発光メカニズムで説明されなければならない。月面衝突閃光の観測例の蓄積によって、発光メカニズムの解明と、大粒のダストの空間密度に関する情報を得られ、太陽系微小天体の衝突現象の解明が期待される。

●関連記事

月刊 星ナビ

●本件に関連する学会発表

日本天文学会2005年春季年会

●本件に関連するウェブページ

●関連画像

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一宮高校による月面衝突閃光の画像

愛知県立一宮高等学校による月面衝突閃光の画像。観測は小川村天文台(共同観測)の口径60cm望遠鏡による。月の夜側の縁付近に発光が見える。左上が天の北方向。(画像/愛知県立一宮高校・地学部&小川村天文台)

<本件に関する取材申込・お問い合わせ先>

(観測結果や解析について)
電気通信大学・情報通信工学科 柳澤正久
Eメール yanagi@ice.uec.ac.jp

(国内での観測について)
長野工業高等専門学校一般科 大西浩次
Eメール ohnishi@ge.nagano-nct.ac.jp

または、

株式会社アストロアーツ 星ナビ編集部 担当:大川
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