【1997年11月25日 佐藤勲氏 satoois@cc.nao.ac.jp】
去る11月7日(金)の夕方、小惑星(1437番)ディオメデスが ペルセウス座にある7等星を隠す現象が、東北、関東、中部地方で観測され、 世界で初めてトロヤ群小惑星の大きさと形がわかった。
小惑星が恒星を隠した時間を数ヶ所で測定すると、その隠された時間から、 隠した小惑星のシルエットの大きさと形が直接にわかる。 ところが、予報の精度が悪いので、どこで見られるのかわからないのが、 この小惑星による恒星の"えんぺい"である。 日本で小惑星による恒星のえんぺいが観測されたのは、これで13回めとなるが、 この小惑星は、太陽と木星との正3角形の頂点にあるトロヤ群と呼ばれる小惑星で、 トロヤ群の小惑星による恒星のえんぺいが観測されたのは、 実はこれが世界で初めてだった。
トロヤ群の小惑星は、 地球からは小惑星帯より2倍以上も遠い木星とほぼ同じ距離にあるので、 小惑星帯の小惑星より、小さく暗く見える。数も少ない。 このため、えんぺいのチャンスも少ないし、予報の精度も、 普通の小惑星のものより悪く、それだけ観測が難しいのだ。
この珍しい現象の正確な予報を出すため、現象の6日前の11月1日に、 国立天文台三鷹の社会教育用50cm反射望遠鏡に取り付けた 液体窒素CCDカメラを使って、ディオメデスの位置観測が行なわれた。 隠される恒星HIP014402の位置は、 昨年6月に出版されたヒッパルコス星表によって正確にわかっているので、 小惑星の位置だけを正確に測ればよいのである。
さて、その改良予報によると、 隠される恒星は、7.4等と8.5等の2つの星が0".63離れた2重星であるが、 50%の確率で主星のえんぺいが日本のどこかで見られ、 もし現象が起こった場合には、最長11秒間にわたって1.5等級の減光が起こる、 というものであった。 1.5等級の減光とは、星の明るさが1/4まで落ちるということである。 この情報は、電子メールやファックスなどを使って、 全国に散らばった観測者に伝えられ、観測網が張られた。
10月から日本はずっと移動性の高気圧に覆われて晴天の日が続き、 11月7日もほぼ全国的に快晴だったが、金曜日の夕方6時半という時間帯は、 まだ帰宅していない人も多く、公開天文台も観望会の時間にあたっていて、 観測できないところも多かった。しかし、小惑星の影は、ほぼ改良予報通りに、 東北、関東、中部地方を通ったのである!
この現象は、長野県長門町の北原勇次さんと 群馬県館林市こども科学館の2ヶ所でビデオに捕らえられた他、 宮城県丸森町の大槻功さん、茨城県つくば市の上原貞治さん、 東京都小平市の松葉佐陽子さん、 東京都調布市の筆者の4人が眼視での観測に成功した。 この他、減光は見たが、うまく時間が測れなかった所が3ヶ所あったのは、 惜しまれる。また、11ヶ所では、現象が起こらなかった。
集まった観測を整約すると、 図のように、かなり細長いディオメデスのシルエットが浮かび上がった。 当てはめられた楕円は、(189±28km)×(96±5km)というものであるが、 楕円からのはずれも見られ、ディオメデスは、 楕円よりもいびつな形をしているらしい。 初めてトロヤ群小惑星の大きさと形がわかったのだ。
日本でのえんぺい観測の成功は、すぐに世界中に伝えられ、 チェコのサロウノバは、ディオメデスの変光観測を行なって、 その自転周期が24.6±0.3時間であるという結果を得た。 えんぺいの直後に小惑星の変光を観測すると、小惑星の立体形状がわかるので、 とても重要な観測なのだ。
小惑星による恒星の掩蔽は、アマチュアにとっては、 ちょっと難しい観測テーマであるが、隠される星が明るければ、 小望遠鏡か双眼鏡でも見える。あとは、短波ラジオのJJYか、 電話の117番で正確な時報を用意し、 星が減光した時と増光した時の声をカセットテープに録音して、 後で再生して時間を計るのだ。 星が消えるかどうかは、時の運だ。さあ、君もさっそくチャレンジしてみよう!