【1997年12月 4日 国立天文台・天文ニュース】
4月に、天文ニュース(98)で、宇宙の将来像についてお知らせしました。 そこでは、二つのグループが、「宇宙膨張はいつか停止する」 ことを示唆する研究結果を得たことを述べました。 今回は、その結論が否定されようとしていることをお知らせします。
いつまでも膨張を続ける「開いた宇宙」であるのか、それとも、 いつかは膨張が停止して収縮に転じる「閉じた宇宙」であるのかを 決める方法の本質は、天体の距離に対してその後退速度をプロットした 図を描くことにあります。 このプロットは地球に近いところではほぼ直線状になりますが、 距離が遠ざかるにつれて、高速の方に僅かに曲がり始めます。 遠くに見える天体は過去の姿を見せているのですから、このことは、 宇宙の膨張速度が、過去から現在に向けて、 少しづつ減速していることを示すものです。 そして、この減速の程度がある一定値より大きければ宇宙が閉じていることを示し、 減速が小さければ宇宙は開いていて、いつまでも膨張を続けることを意味するのです。
この図を描くには天体の距離と後退速度との両方を測らなくてはなりません。 後退速度は天体のスペクトル線の赤方偏移を測ることで比較的容易に測定できますが、 距離を決めることはそう簡単ではありません。 いまのところ、距離はタイプ-Iaの超新星を使って決める方法が中心になっています。 タイプ-Iaの超新星は明るさがほぼ一定ですから、 見かけの明るさと比べることで距離を決めることができるのです。
この研究手段が変わったわけではありませんが、 超新星の観測にハッブル宇宙望遠鏡を使うことで事態が変わりました。 超新星の真の明るさを決めるには、 その減光曲線による補正を加える必要がありますが、減光曲線を決めるには、 1月以上にわたって測光観測をすることが必要です。 しかし、地上からの観測では、 大気で散乱される月光が邪魔になるので精度が上がりません。 一方、ハッブル宇宙望遠鏡による観測では、大気圏外にあるので散乱光の妨害がなく、 また分解能が高いので母銀河の光を容易に分離できて、高精度の観測ができます。 これが地上からの観測との決定的な違いになります。
ローレンス・バークレー研究所のパールマター(Perlmutter,P)らのチームは、 約70億光年の距離にある1個の超新星のハッブル宇宙望遠鏡による観測結果を 加えたことで、宇宙が開いている結果になりました。 また、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの ガーナビッチ(Garnavich,P)らのチームは、ハッブル宇宙望遠鏡で観測した3個の 超新星のデータを取り入れて、同じく開いた宇宙を示す結果にたどりつきました。 独立に観測している二つのチームの結果が一致したことは暗示的です。 これらの結果を見るかぎり、宇宙は永遠に膨張を続けることになるのです。
もちろん、この結果は決定的なものではありません。 確実なことを知るには、もっとたくさんの超新星を観測し、 いろいろと検討しなければなりません。 しかし、ハッブル宇宙望遠鏡の観測によって、 宇宙の未来像が見え始めたように思えます。
参照 Schmidt,B et al., Astrophysical Journal Letters, (preprint).
Glanz,J., Science 278,p.799-800(1997).
1997年12月4日 国立天文台・広報普及室