「ペルセウス座流星群」、「しし座流星群」など、たくさんの流星が出現する流星群は、ほとんどその母彗星がわかっています。 母彗星は文字通りそれらの流星物質を放出した彗星で、一般に流星物質とほぼ同じ軌道で太陽系内を運行しています。
その例外なのが「しぶんぎ座流星群」です。 これは「うしかい座」、「りゅう座」、「ヘルクレス座」の境界付近を放射点にして、毎年1月3日から4日にかけて流星が出現する流星群で、多数の流星が見えるのはほんの数時間ですが、その間には、1時間あたり100個以上の流星が見えることも稀ではありません。 これほど流星が出るのに、その母彗星がはっきり特定されてはいないのです。
母彗星がわからないのは、(1)暗すぎるために発見できない、(2)小惑星と見誤られている、(3)母彗星と流星群とが異なる軌道進化をしたため、現在はまったく異なる軌道になっている、などの理由が考えられます。 その中で、最近は特にこの(3)が考慮されるようになりました。 それは、「しぶんぎ群」の軌道が木星との共鳴軌道に近く、また木星に近づくこともあるので、比較的短期間で軌道が大きく変わる可能性が大きいことがわかったからです。
こうした観点から、これまでに二つの彗星が「しぶんぎ群」の母彗星ではないかと指摘されています。 ひとつは長谷川一郎が1979年に述べた1491年第I彗星(C/1490 Y1)、もうひとつはマッキントッシュ(McIntosh,B.A.)が1990年に指摘したマクホルツ彗星(96P/1986 J2)です。 どちらも現在の軌道は「しぶんぎ群」とかけはなれていますが、過去にさかのぼった軌道はかなりよい一致をするのです。 一体、どちらが本当の母彗星なのでしょうか。
イギリス、クインマリー大学のウイリアムズ(Williams,I.P.)らは、流星群やこれらの彗星の軌道を詳細に解析してそれらの関係を調べました。 さらに、1973年に発見された小惑星(5496)も、過去に流星群と軌道がよく一致することも見いだしました。 この小惑星は直接に流星群の母天体ではないにしても、同じ母彗星から放出された可能性があるといっています。 そして、つぎのようなシナリオを組み立てました。
時期ははっきりしないが数1000年前に、ある彗星の核がいくつかに分裂した。 その破片のうちの三個がいまわかっていて、それぞれ1491年第I彗星、マクホルツ彗星、小惑星(5496)である。 「しぶんぎ群」の流星物質は、これらの三つの破片や、まだ確認されていない他の破片から放出されたものである。 特に、現在観測されている流星群は、1491年第I彗星やその他未発見の破片から放出されたものである可能性が大きい。
したがって、太陽系の中には、同じ彗星核が破砕して生じた未発見の破片がまだあるかもしれないのです。
参照 | Wiliiams,Iwan P. et al., Mon.Not.R.Astron.Soc.,294,p.127-138(1998). |
1998年3月5日 国立天文台・広報普及室