1994年にシューメーカー・レビー第9彗星がいくつもの破片になって木星に衝突した ことは、記憶されている方も多いことでしょう。つぎつぎに衝突した破片は、木星の自 転に伴って、木星上の同じ緯度のところにきれいに並ぶ衝突痕の連鎖を作りました。こ の衝突から、「もし、この衝突が地球でおこったらŚŚŚŚ」という想像をした方もあった に違いありません。
もちろん、過去の地球には何回もの天体の衝突がありました。これまでに約150個の 天体衝突の痕跡がクレーター等の形で地球上に見つかっています。その中には、シュー メーカー・レビー彗星の衝突のように、破砕した天体がつぎつぎに衝突して作った連鎖 クレーターがあるかもしれません。
カナダ、ニューブランズウィック大学のスプレイ(Spray.John G.)らは、こうした立 場から地球上に存在する衝突クレーターを見直した結果、今から2億1400万年前にでき た5個のクレーターが、破砕した一群の天体が衝突してほぼ同時に生じた連鎖クレータ ーであることを推定しました。
これらの衝突クレーターの大きいものは、フランスのロシュショール(Rochechouart) クレーター(直径25km)、カナダのマニコーガン(Manicouagan)クレーター(100km)とセイ ント・マーティン(Saint Martin)クレーター(40km)です。最近の年代測定から、これら はみな三畳紀の末、いまからおよそ2億1400万年前にできたものであることがわかって います。これらは現在北緯45.8度から51.8度の間に分布し、同じ緯度上にあるわけでは ありませんが、プレート運動による大陸の動きを過去に戻して、2億1400万年前の位置 で考えると、これら三個のクレーターは、その時代の緯度で、ほとんど北緯22.8度の線 上に並び、その誤差は1度以下に納まります。同時代にできた三個のクレーターが同一 緯度に並ぶのが偶然であるとは、ほとんど考えられません。
これに加えて、ウクライナにあるオボロン(Obolon)クレーター(15km)とアメリカ北部 にあるレッド・ウイング(Red Wing)クレーター(9km)もほぼ同時期にできたと推定され ています。この二つは上記の三個のクレーターと同じ緯度ではありませんが、オボロン とロシュショールを結ぶ線も、セイント・マーティンとレッド・ウイングを結ぶ線も、 22.8度の緯度線と一定の傾きをもつ平行な大円上にあります。この事実は、ある天体が まず大きく三つに分裂し、あとからそのうち二つがさらにこわれて小さい破片を生み出 し、それらがつぎつぎに地球に衝突したことを想像させます。まずロシュショールとオ ボロンのクレーターを作った一対が衝突し、つぎに、地球自転によってやや西にずれた 地点にマニコーガンの衝突が起こり、最後にセイント・マーティンとレッド・ウイング を作った破片の一対がもっとも西の地点に衝突したという順序です。ロシュショール・ クレーターとセイント・マーティン・クレーターは、その時代の経度で43.5度離れてい ますから、これらの衝突が3時間足らずで起こったことがわかります。こうして衝突し た天体が小惑星であったか彗星であったかは、いまのところよくわかっていません。
白亜紀の末に起こった天体衝突によって生物種の大量絶滅が起こり、それによって時 代が第三紀に移り変わったことはよく知られています。ここで述べた衝突によっても同 様な事態は起こらなかったのでしょうか。実は三畳紀にも何回か生物種の大量絶滅が推 測されています。そのひとつは、この連鎖クレーターを作った衝突によってひき起こさ れたものかもしれません。
参照 | Spray,J.G. et al., Nature 392,p.171-173(1998). |
アメリカ天文学会プレスリリース(Mar.12,1998). |
1998年3月26日 国立天文台・広報普及室