【1998年5月27日 国立天文台発】
東京大学と国立天文台の研究チームはオリオン大星雲中の生まれたての星−原始星を観測し、この星が太陽より300倍以上も大きく膨れ上がり、しかも誕生してから1千〜3千年しかたっていないことを明らかにした。 巨大な原始星がこれほどの短期間で急成長するというのは、まったく予想もされていなかったことで、星形成の解明に新たな証拠が加わったことになる。
星の誕生は宇宙空間に漂うガス雲が自らの重力で収縮することで始まる。 ガスが圧縮され高圧になって温度が上がり原始星が誕生する。 周囲のガスは円盤状に回転しながら恒星に降り積もり、恒星の両極からはガスのジェットが吹き出すようになる。 この円盤構造を降着円盤という。 やがて自らの重力で中心部の圧力が高まり原子核反応に火がついて恒星として輝きはじめ、周囲のガス雲を吹き飛ばしその姿を現すようになる。
このように恒星の誕生は厚いガス雲に包まれているため可視光で観測する事が困難であった。 ここ数十年の赤外線および電波による観測により降着円盤やジェット流の観測に成功してきている。 恒星のスペクトルが観測できれば温度、質量、大きさなどが解明できるので、世界の天文学者は原始星を直接観測することに挑戦してきたが、未だに成功していない。 そこで東京大学と国立天文台の研究チームは、ジェット流で開いた降着円盤の穴の内壁の部分に反射する原始星の光に注目し、世界で始めて原始星のスペクトルを観測する事に成功した。
スペクトル分析の結果、表面温度は4500度で太陽の6000度より低いことが判明した。 温度が低いと、少ないエネルギーしか放出できないのだが、この原始星は太陽の10万倍というエネルギーを放出している。 このことからこの原始星の直径は太陽の300倍以上もある巨星であることがわかった。 そして、温度と直径から原始星の成長シミュレーションを行うと、誕生から数千年程度の時間しかたっていないという結果が得られた。 太陽程度の恒星の成長は100万年程かかると考えられているので、大質量の星はこれまで予想もしなかったほど急速に成長するようだ。
宇宙の変化というのは大変な時間がかかるというのが常識であったが、近年では星の最後である惑星状星雲も数千年の単位で誕生するらしいことが分かってきている。 天文学的スケールといったときの時間の軸に関してはもっと見直しの必要があるのかもしれない。 これまでに考えられてきた以上に宇宙はダイナミックに変化しているようだ。
白い○で囲まれた位置が今回観測に成功した Orion-KL-IRc2という原始星。 降着円盤の穴からもれた原始星の光で、その周りの蝶のような形の反射星雲が光っている。 画面やや左下に白く輝くのはトラペジウム。
□記者発表資料