【1998年10月1日 国立天文台・天文ニュース(206)】
今年1月7日に打ち上げられたアメリカ航空宇宙局(NASA)の月探査機ルナ・プロスペクターは、1月16日に月を回る極軌道に入り、月表面から約100キロメートルの高さを、周期118分で周回しながら、月の探査をつづけています。 この探査機が月の極付近で多量の凍った水を確認したというニュースはすでにご存じでしょう。
さて、搭載された中性子分光器、ガンマ線分光器、アルファ線分光器などによって、月表面の物質を詳細に調べることが、この探査の重要な目的ですが、一方で月の磁場、月の重力分布なども詳しく調査しています。 その重力分布から、月に半径300キロメートル程度のコアが存在することが推定されました。
月の中心部に鉄を多量に含む高密度のコア(核)が存在するかどうかは、月誕生の過去を知るための重要な鍵です。 たとえば、地球のマントルの一部が分裂して月になったという説が正しいとするなら、月にコアが存在するはずがありません。 アポロ計画をはじめ、これまでの月探査では、月のコアの有無について、はっきりした結論が得られていませんでした。
月表面の重力分布は、地上の電波望遠鏡でルナ・プロスペクターの軌道変化を追跡して求めます。 つまり、月の一部に重力の大きなところがあれば、その重力に引かれて、その付近で探査機の高度がわずかに下がるのです。 ですから、探査機の軌道変化をくわしく調べれば重力分布がわかるというわけです。 こうして得られた、これまでにない高精度の重力分布図から、地球に向いている半球にあるフンボルト海やメンデル・リュードベリなどに、新しく3個のマスコン(Mass Concentration;周囲より密度の高い岩塊があり、質量が集中している地域)が発見されました。
また、全体の重力分布からは、正規化した極軸まわりの慣性モーメントが、0.3932であることがわかりました。 これは、中心部にコアがなくては考えられない値であり、月にコアが存在するのは確実なこととなりました。 もしこのコアが純粋な鉄であるとすればコアの半径は220キロメートル、もっと密度の小さな硫化鉄であるとすればその半径は450キロメートルほどであると考えられます。 実際には、おそらくこれらの値の中間の300キロメートル程度であろうと推定されています。 地球のコア半径は地球半径の半分以上にもなりますが、月のコアは月半径の2割程度の大きさしかなく、比較的小さなものといえるでしょう。
月がどのようにして生まれたかについては、上に述べたように、地球から分裂して生じたという説のほかに、地球と同時に別々に誕生した、あるいは小惑星を捕獲したなど、さまざまな説があります。 しかし、現在学界をリードしているのは「ジャイアント・インパクト(大衝突)説」です。 これは、原始地球に火星程度の大きさの原始惑星が衝突し、地球からたくさんの物質の破片をはじきだし、それらの破片が後に合体して月になったというものです。 なお、今回求められた月のコアの大きさは、この「ジャイアント・インパクト説」に何の不都合をもたらすものでもありません。
参照 | Irion, Robert, Science281, p.1424-1425(1998). |
Binder, AlanB., Science281, p.1475-1476(1998). | |
Konopliv, A.S.et al., Science281, p.1476-1480.(1998). |