【1998年12月17日 国立天文台・天文ニュース(229)】
系外惑星が発見されるまで、知られていた惑星系は太陽系ただひとつでしたから、惑星系形成の理論はすべて太陽系を基準として構成されました。軌道間隔はほぼボーデの法則にしたがい、円に近い軌道で、太陽系のような大きさの惑星が並ぶことを目標にしていたといっていいでしょう。
数年前、太陽系以外に初めて惑星が発見され、引き続いていくつかの系外惑星が確認されました。しかし、そこで見出されたものは、木星より大きい惑星が中心恒星のごく近くに存在するものであったり、細長く伸びた楕円軌道をもつ惑星であったりして、太陽系とはかけ離れた形の惑星系だったのです。その結果、太陽系を基準としたこれまでの惑星形成理論は見直さざるを得なくなりました。
星間ガスが集まって回転するガス円盤になり、その中心に恒星が誕生するとき、周辺部から惑星系ができるというのが惑星系誕生の大筋のシナリオです。コロラド州ボールダーのサウスウエスト研究所、宇宙科学部(Space Science Department Southwest Research Institute)のレビスン(Levison Harold F.)らは、この状況を知るために、巨大ガス惑星のについての数値シミュレーションをおこないました。このシミュレーションは、中心に太陽質量の天体を置き、適当な質量分布をもつ惑星の卵(embryo,火星から地球ぐらいの大きさの固体)を100から200個ほど4から40天文単位の間に配置し、もっともらしい初期条件で運動させるというものです。
それぞれの惑星の卵は、ある程度以下の距離に近づくと合体して大きくなります。また周囲のガスを集積しても成長します。その間、重力による相互作用で、系外に放出される卵も出ます。ある程度の時間が経過すると、いくつかの大きなガス惑星ができ、その軌道は相互衝突がない、十分離れた形になって安定します。それまでの過程を、多体問題として、数値積分で追跡するのです。
レビスンらは、3種の初期配置に対し、7個のパラメータをもっともらしい様々の値に変えて、32種の計算をおこないました。安定軌道になるまでの積分期間は数100万年から、長いものでは100億年にもなり、ワークステーションによる現実の計算時間は、多くは数週間程度、長い場合は数ケ月にも達しました。同一の結果になったものもあり、最終的に28種の結果に到達したのです。
結果を簡単にまとめますと、1個から7個までのすべての数の惑星が、シミュレーションのどれかで形成されました。太陽系の巨大ガス惑星(木星、土星、天王星、海王星)の構成に似た結果もありましたが、木星より大きい惑星3個がごく近い軌道間隔で並ぶもの、天王星程度の惑星が7個ほぼ等間隔で並ぶものなどもあり、全体としてかなりカオス的状況を示しました。最大の惑星は地球の1261倍(木星は318倍)の質量でした。最終安定軌道の離心率は一般にかなり大きく、つぶれた楕円軌道になるものが多数で、太陽系のようにほぼ円形軌道で安定するものは少数でした。そして、これまでに発見されているような、恒星のごく近くに大きな惑星ができるといった例は得られませんでした。
この結果だけから断定することはできませんが、この状況からみると、太陽系のような構造はごく例外的なのかもしれません。ボーデの法則は、単に偶然の結果である可能性が強いように思われます。
参照 | Levison,H.F. et al., The Astronimical Journal,116,p.1998-2014(1998). |
Gladman,B., Nature 396,p.513-514(1998). |
訂正 | 天文ニュース(226)で、G番号星の選択基準を、固有運動が「26"/年より大きい」と書きましたが、これは「0.26"/年より大きい」の誤りでした。お詫びして訂正するとともに、ご指摘いただいた方々に感謝いたします。 |