●流星群の素となるのは、彗星から放出されたチリ
しし座流星群の母彗星であるテンペル・タットル彗星の回帰は3年前の1998年2月28日であり、現在は太陽から遠ざかりつつある。この母彗星の周りには、太陽接近時に放出されたチリが濃密に分布している。下は太陽に接近して、激しく揮発成分(水や一酸化炭素、シアンなど)を放出するテンペル・タットル彗星の想像図。彗星の核は、小さな岩石成分を含んだ氷の塊(汚れた雪だるまと形容される)だと考えられていて、太陽熱で融けた揮発性成分がガスとなって、核から噴出している。
<下:太陽に接近してガス成分を吹き出すテンペル・タットル彗星 想像イラスト/遠山御幸>
このとき彗星核から噴出したガスは、イオン化して、太陽とは反対に伸びるイオンの尾(ガスの尾、プラズマの尾とも呼ばれる)を形成する。一方、ガスとともに放出された岩石成分の中で、流星の素となるチリより小さいミクロンサイズものは、太陽からの光圧で、しだいに彗星の外側に拡散していき、ダストの尾(チリの尾)となる。
1997年3月のヘール・ボップ彗星。太陽の反対方向に伸びる青色のイオンの尾は、プラズマ化したガス成分で、白く太く右方向に伸びているのがダストの尾。
写真撮影/高岡誠一
下:近日点通過前の1998年2月17日に撮影された、55P/テンペル・タットル彗星。この彗星は、それほど大きなものではなく、ごくありふれた周期彗星で、ダストの量も多いほうではない。写真提供/国立天文台
彗星核から放出されたダストの中で、流星の素となる『ミリサイズ』の破片は、彗星核近傍にとどまり、放出時のスピードを得て、わずかに彗星核とは違う軌道をとり、しだいに彗星軌道上付近に拡散していく。この時、太陽接近時に彗星核から前方に放出されたチリは、加速され彗星核より大きな軌道となり、公転周期は長くなる。逆に後方に放出された場合は減速されて、軌道が小さくなり周期が短くなる。こうして、何回かの母彗星の回帰の後、彗星核のまわりに流星素物質の流れができる。さらに、流星の素となるチリは、彗星核からの放出スピードだけでなく、太陽からの光圧の影響を受け、わずかに軌道が外側に変化する。これによって、チリの軌道は、彗星核より大きくなる傾向があり、全体としては彗星核の前方より後方の方により多く分布することになる。これが、流星群の素となるチリの流れの形成過程であって、彗星核自体が地球近傍を通過する前後、とくに通過後2〜3年にわたって、流星群が大きな出現を見せる理由でもある。
ちなみに、今回の母彗星の太陽接近に伴って放出されたチリは、まだ母彗星のごく。近くにあって、母彗星から大きく拡散はしていない。今回、大出現が期待されている「しし座流星群」の素となるチリは、数回前の太陽接近時に放出されたチリによるものだ。
<下:母彗星のテンペル・タットル彗星の軌道に拡散していく流星の素となるチリの流れ>
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