「トモエゴゼン」が地球接近小惑星を発見
【2019年3月28日 東京大学木曽観測所】
地球に接近する軌道を持つ小惑星である「地球接近小惑星」は、地球に近づいた時にタイミング良く観測をすると直径10mサイズの小さなものまでも観測できる。このような小さな小惑星は、「はやぶさ2」が探査中のリュウグウのようなより大きな小惑星の構成要素であると考えられており、小惑星の形成過程や太陽系の惑星の進化過程を解明する上で重要な天体とされている。
一方で、地球接近小惑星は地球に衝突して人類の生活に影響を与え得る危険な天体でもある。こうした天体の落下地点を事前に予測することができれば被害を最小限に抑えることも可能となるため、地球接近小惑星の発見や監視が必要とされる。月軌道の内側を通過し、地球に衝突する可能性のある小惑星は1年間に50件程度が確認されているが、実際にはそれよりもはるかに多い数が未確認のまま通過していると考えられている。
現在、東京大学木曽観測所では、口径105cmシュミット望遠鏡の広い視野(9度)のすべてを84個のCMOSイメージセンサーで覆う超広視野高速カメラ「トモエゴゼン」の開発が進められている。トモエゴゼン計画の研究グループでは2019年3月中旬から、運用中の63個のCMOSセンサーを搭載したトモエゴゼンを用いて、空の広範囲の動画データを取得した。
このデータを人工知能動画解析システムで解析したところ、2019年3月16日から17日の夜に、しし座の中を高速移動する未知の天体が検出された。岡山県の美星スペースガードセンターや滋賀県の井狩康一さん、さらに国外の天文台による追跡観測のデータから軌道を計算した結果、地球最接近時には地球から22万km(地球から月までの距離の約0.58倍)のところを通過した小惑星であることが判明し、国際天文学連合小惑星センターより小惑星番号「2019 FA」が与えられた。トモエゴゼン計画によって発見され仮符号が付けられた初の小惑星である。
表面の明るさから、2019 FAの大きさは8mほどと推測されている。木曽観測所ではこれまでに計109個の小惑星番号が付いた小惑星を発見しているが、100mサイズ以下の小惑星を発見したのは今回が初めてだ。公転周期は約1.6年で、今後の地球再接近時に複数回の再検出が行われると、この小惑星の正式な認定を意味する小惑星番号が付与される。
今回、トモエゴゼンによる1夜分の広域観測データから1個の地球接近小惑星を発見した。これは1年に100夜の同様な観測を実施した場合、年間100個の地球接近小惑星を発見できる可能性があることを意味する。広視野の動画観測において世界最高感度を有するトモエゴゼンの探査によって10mサイズの小惑星の発見数が飛躍的に増えることで、小惑星や太陽系の形成過程の研究のみならず、地球に衝突する危険度の高い天体の早期発見にも大きく貢献すると期待される。
関連記事
- 2022/08/12 トモエゴゼンが赤色矮星の短時間フレアを多数検出
- 2022/07/22 秒単位で自転する微小小惑星を動画でとらえる
- 2022/05/23 降着円盤の構造をとらえる新たな手法、可視光線とX線の高速同時観測
- 2020/01/22 連星の地球接近小惑星を起源とした火球
- 2019/12/03 準惑星候補クワーオアーによる恒星食の動画観測に成功
- 2019/10/03 木曽観測所の統合システム「トモエゴゼン」が観測運用を開始
- 2019/05/07 トモエゴゼン、センサー84枚のフル構成で初観測
- 2018/07/19 双子の小惑星2017 YE5をレーダーでとらえた
- 2018/03/29 わずか172秒で自転する地球接近小惑星
- 2010/09/03 地球接近小惑星は予想以上に多様性に富む天体だった
- 2008/02/18 三重系の小惑星、地球に接近中
- 2004/08/26 地球にニアミスした小惑星2004 FU162
- 2004/07/23 地球接近小惑星の脅威に備えるドン・キホーテ・ミッション
- 2004/03/22 小惑星が地球にニアミス
- 2004/03/19 リニア計画チーム、今まででもっとも地球に接近した小惑星を発見
- 2002/07/26 8月中旬に小惑星が地球に接近(NAOニュース)
- 2001/12/20 地球接近小惑星の数 (NAOニュース)
- 2001/12/18 小惑星 1998 WT24 画像集
- 2001/12/13 小惑星1998 WT24が地球に接近 (NAOニュース)
- 2001/12/12 小惑星 1998 WT24 が地球に接近 星空の中を高速で駆け抜ける