準惑星候補クワーオアーによる恒星食の動画観測に成功

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東大木曽観測所の「トモエゴゼン」によって準惑星候補天体「クワーオアー」による恒星食が観測され、クワーオアーに大気が存在する可能性が低いことが明らかになった。

【2019年12月3日 京都大学東京大学木曽観測所

太陽系の中で海王星軌道より外側の領域には、「太陽系外縁天体(TNO)」と呼ばれる小天体がたくさん存在している。TNOのうち最大の天体は冥王星(直径2370km)だ。直径1000kmを超えるTNOは冥王星を含めて現在までに7個(冥王星の衛星カロンを除く)発見されていて、このうち上位の4個は「準惑星」に分類されている。

TNOは地球から非常に遠いため、その性質はほとんどわかっていない。NASAの探査機「ニューホライズンズ」が2015年に冥王星、2019年にアロコス(2014 MU69、愛称「ウルティマ・トゥーレ」)にフライバイして画像の撮影に成功したものの、これ以外のTNOについては謎だらけだ。

2002年に発見されたTNOの「クワーオアー((50000) Quaoar)」は、直径が約1100kmと推定され、TNOの中では第6位の大きさを持つ準惑星候補天体だ。これまでの研究で、クワーオアーの表面には水・アンモニア・メタンなどの氷が存在することがわかっていて、しかもこれらの氷の一部は年代が若い可能性があると考えられている。このことから、クワーオアーは大気活動や氷火山が存在する、現在も活動的な天体だという可能性がある。

クワーオアーの想像図
クワーオアーの想像図(提供:有松亘/AONEKOYA)

今のところ、TNOの中で大気を持つことがはっきり確認されているのは冥王星のみだ。冥王星以外のTNOに大気があるかどうかを知ることは、TNOがどんな性質を持ち、天体ごとにどのくらいの多様性があるのかを知ることにもつながる。

そんな中、2019年6月28日に日本のほぼ全域で、クワーオアーが15.7等の恒星を隠す恒星食が見られることが予報された。

そこで、京都大学の有松亘さんをはじめとする、東京大学・岡山大学・日本スペースガード協会・兵庫県立大学の共同研究グループによって、国内4か所でこの恒星食の同時観測が行われた。東京大学木曽観測所でも観測が行われ、口径105cmシュミット望遠鏡に新たに搭載された超広視野高速カメラ「トモエゴゼン」を使って、この恒星食の動画観測に成功した。

通常の小天体による恒星食では、対象の恒星が天体に隠されると瞬間的に減光するが、大気を持つ天体が恒星を隠す場合には、恒星からの光が天体の大気で屈折されるため、減光・増光がゆっくり起こることが予想される。しかし、有松さんたちがトモエゴゼンで得た動画データから掩蔽直前・直後の恒星の光度変化を詳細に解析した結果、クワーオアーには大気の存在を示す兆候は見られなかった。分析結果からは、クワーオアーに仮に大気があったとしても、その量は60万分の1気圧以下であるという上限値が得られた。これは過去の観測から求められていた上限値よりもさらに強い制限を与える成果だ。

クワーオアーによる恒星食
トモエゴゼンが撮影したクワーオアーによる恒星食の動画から、(左)掩蔽前、(中央)掩蔽中、(右)掩蔽後のフレームを並べたもの。各画像の中央の光点がクワーオアーに掩蔽された恒星像(提供:東京大学木曽観測所)

これまでにも、恒星食を使って小天体の大気や環、衛星などの存在を調べる観測が行われてきたが、精度の良いデータを得るためには、高い時間分解能で掩蔽現象をとらえなければならず、しかも隠される恒星が明るい必要があった。トモエゴゼンが完成したことで、より頻度の多い暗い星の掩蔽についても、高感度の動画観測が可能となった。これによって、謎の多いTNOの大気や表面の性質を明らかにし、TNOという天体への理解が加速することが期待される。

「掩蔽という天文現象を利用するというアイディアと、最新の観測装置を用いた動画観測という新しい観測手法により、これまで解明の難しかった太陽系の果ての天体の様子を詳細に解明することに成功しました。今後はこの観測手法とアイディアを応用することで、太陽系の果ての描像が急速に究明できるようになるでしょう」(有松さん)。

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