カイパーベルトは予想外に広い?鍵となる天体を「すばる」で発見
【2024年7月2日 すばる望遠鏡】
海王星軌道の外側には、小天体がたくさん分布する「カイパーベルト」と呼ばれる領域がある。これまでの観測で、太陽から約50天文単位(海王星の軌道半径の約1.6倍)を超えるとカイパーベルト天体(KBO)の数が急激に減ることが知られていて、このあたりがカイパーベルトの外側の端だと考えられてきた。
この端がどうやってできたのかについてはいくつかの説がある。46億年前の原始太陽系星雲がこのくらいのサイズだった名残だという考え方もその一つだが、観測されている他の原始惑星系円盤は半径100天文単位くらいのものが多い。もしカイパーベルトの外端が原始太陽系星雲の名残だとすると、太陽系は一般的な原始惑星系円盤よりもかなり小さく誕生したことになる。
あるいは、カイパーベルトの外端はさらに外側を回る天体の影響で切り取られてしまったものだという説もある。もしそうなら、カイパーベルトの外側に、外端を切り取った原因天体や「第2のカイパーベルト」が見つかるかもしれない。このように、太陽系外縁天体(TNO)を発見してその分布を調べることは、太陽系の進化の歴史を知る上で非常に重要だ。
TNOの探査を目的として2006年に打ち上げられたNASAの探査機「ニューホライズンズ」は、2015年に冥王星をフライバイ、2019年にはKBOの一つ「アロコス」をフライバイして、史上初めて太陽系外縁天体の近接撮影画像を地球に届けた。
ニューホライズンズは延長ミッションに入っており、現在も太陽系外縁部を飛行中だ。ミッションチームはすばる望遠鏡を使ってニューホライズンズの次の目標天体を探す観測を行っている。同チームはすばる望遠鏡で決まった視野を長期間撮り続け、これまでに240個以上のTNOを発見している。
千葉工業大学の吉田二美さんたちの研究チームは、このすばる望遠鏡による探索画像セットを使い、ニューホライズンズのチームとは独立にTNOの検出を行った。画像の解析には、研究チームの一員であるJAXAの研究者が開発した移動天体検出システムが使われた。このシステムはもともと、未知のスペースデブリや地球接近天体(NEO)を見つける目的で開発されたものだ。解析の結果、2020年6月と2021年6月に撮影されたデータから、84個のKBO候補が検出された。
さらに研究チームは、これらの移動天体の軌道を推定して、複数夜にわたって検出された同じ天体を同定するために、アストロアーツが開発した移動天体検出ソフトウェア「ステラハンター・プロフェッショナル」を使用した(このソフトにもJAXAの移動天体検出システムと同じアルゴリズムが採用されている)。この解析により、2020年5~8月のデータから6個、2021年6月のデータから1個、計7個のTNOが見つかり、そのうち2個は軌道長半径が「カイパーベルトの外端」である50天文単位より大きいことがわかった。
今回の発見や、ニューホライズンズのチームが発見した天体の軌道分布、ニューホライズンズが観測を続けている塵の観測データなどを考えると、カイパーベルトは50天文単位を超えてさらに広がっている可能性がある。似たような軌道を持つ天体がさらに見つかれば、カイパーベルトが従来の予想よりも広い可能性はさらに高まるかもしれない。
〈参照〉
- すばる望遠鏡:カイパーベルトは予想外に広大か? ―すばる望遠鏡 超広視野観測で「ニュー・ホライズンズ」に協力―
- PASJ:A deep analysis for New Horizons' KBO search images 論文
〈関連リンク〉
- すばる望遠鏡
- New Horizons:
- アストロアーツ:ステラハンタープロフェッショナル
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