セドナの軌道は「第9惑星」がなくても説明できる

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セドナのように海王星のはるか外側を公転する「分離型TNO」の起源について、数値シミュレーションを用いて新たな仮説が提唱された。

【2018年6月11日 コロラド大学ボルダー校

太陽系最遠の惑星である海王星(太陽からの距離が約30天文単位、1天文単位は約1.5億km)のさらに外には、「太陽系外縁天体(Trans-Neptunian object; TNO)」と呼ばれる小天体がたくさん存在している。TNOは太陽からの距離や軌道の傾きによっていくつかのグループに分かれる。

大半のTNOは「エッジワース・カイパーベルト天体」と呼ばれ、太陽から30~55天文単位の範囲に分布している。準惑星の冥王星やマケマケ、ハウメアなどがこのグループに属するTNOだ。また、近日点が海王星に近く遠日点が50~100天文単位を超えるような、「散乱円盤天体(scattered disk object / scattered TNO)」と呼ばれるグループもある。このタイプのTNOはかつて海王星などの巨大惑星の重力で軌道を大きく変えられた天体だと考えられている。冥王星に次いで2番目に大きなTNOである準惑星エリスはこのグループに入る。

さらに、近日点が40天文単位を超え、遠日点が数百天文単位に達するような非常に大きな軌道を持つ、「分離型TNO(detached object / detached TNO)」と呼ばれるグループもある。2003年に発見されたセドナはこのグループに属するTNOだ。分離型TNOは近日点が海王星よりかなり外にあって太陽系の他の天体から「孤立」しており、木星や海王星には決して近づくことがない。そのため、分離型TNOがどのようにして自力で現在の軌道にたどり着いたのかは、未解明の謎となっている。

セドナの想像図
セドナの想像図(提供:NASA/JPL-Caltech)

分離型TNOの起源については、まだ見つかっていない「第9惑星」が海王星の外側に潜んでいて、これによって太陽から遠く離れた領域へ小天体がはね飛ばされて分離型TNOになった、という説も提唱されている。第9惑星は、もし存在するとすれば大きさは地球の約10倍と考えられていて、2年ほど捜索が続けられているが、今のところ見つかっていない。

米・コロラド大学ボルダー校のAnn-Marie Madiganさんたちの研究チームは、分離型TNOの現在の軌道は、第9惑星の散乱によるものではなく、太陽系の外縁部にある天体同士の相互作用で説明できるという研究成果を発表した。

「海王星の外側の領域には数多くの天体が存在しています。それらが集団として及ぼす重力が何を引き起こすのかを考えれば、多くの疑問を解くことができます」(Madiganさん)。

Madiganさんと同校のJacob Fleisigさんはもともと分離型TNOの起源を探っていたわけではなく、TNOの運動を調べるコンピューターシミュレーションを開発していた。その開発を行う中でFleisigさんは、TNOの軌道が時計の針のような運動をすることを見つけた。小惑星ぐらいの質量の天体は、軌道の向きが分針のように比較的速いペースで動いていき、しかも複数の天体の軌道がペースを合わせて動いていく。一方、セドナのような大きな天体では、時針のようにゆっくりと軌道の向きが動く。そしてついには、小さな天体と大きな天体の軌道の向きが重なるときがやってくる。

「太陽に対して一方の側に、小天体の軌道がたくさん集まります。これらの軌道が大きな天体とぶつかって起こる相互作用によって、大きな天体の楕円軌道がより円に近い形に変化します」(Fleisigさん)。

このようにして、小規模の重力相互作用のみによって、セドナのような大きな天体の軌道がきわめて遠い場所を公転する孤立した軌道に変わるのだ。彼らの発見は、大きな分離型TNOほど太陽から遠い軌道を持つという最近の観測結果とも一致している。

セドナの軌道は、太陽系外縁部がどれほど興味深いかを物語る一例だとMadiganさんは語っている。「教科書に描かれている太陽系外縁部の描像は修正する必要があるかもしれません。そこには、私たちがかつて考えていた以上のことがまだまだたくさんあります。本当に面白い場所です」(Madiganさん)。

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