太陽系外縁から移動してきた?小惑星帯に非常に赤い天体

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小惑星帯に極めて赤いスペクトルを持つ小惑星が2つ見つかった。両者は太陽系外縁で誕生し、その直後に小惑星帯まで移動してきたと推測されている。

【2021年8月3日 JAXA宇宙科学研究所

太陽系形成時の様子を知る上で、太陽系外縁部の情報をそのまま残している天体の調査が必要とされている。太陽系外縁天体の一部が彗星となって地球に水や有機物をもたらしたという見方が有力なことからも、その調査の意義は計りしれない。しかし、冥王星などをフライバイしたニューホライズンズのような探査機を太陽系外縁へ送るにはたいへんなコストと時間がかかる。地球に接近する彗星や、彗星が小惑星帯付近にとどまって小惑星に変化した天体を調べることも考えられるが、既に太陽からの熱によって表層はある程度蒸発しているはずだ。

海王星より外側に散らばる太陽系外縁天体には、火星と木星の間の小惑星帯を中心に分布するあらゆる小惑星と比べて表面が赤い(波長が長い光をよく反射する傾向がある)という特徴がある。太陽から遠く、メタンなどの揮発性有機化合物が凍ってしまう「有機化合物スノーライン」よりさらに遠方で誕生したことにより、表面が複雑な有機物で覆われているのでスペクトルが赤くなるのだと考えられている。

太陽系外縁部にしか存在しないと思われていたこのような赤い天体が、小惑星帯で見つかった。小惑星帯で直径100km以上の小惑星の分光サーベイを実施ししているJAXA宇宙科学研究所の長谷川直さんたちの研究チームは、直径110kmの「ポンペヤ((203) Pompeja)」のスペクトルがどの小惑星グループよりも赤く、太陽系外縁天体と似た傾向であることを突き止めた。さらに過去の研究を調べたところ、直径55kmの「ユスティティア((269) Justitia)」もポンペヤと同様な赤さであることがわかった。

ポンペヤとユスティティアのスペクトル
ポンペヤとユスティティア、他の小惑星や太陽系外縁天体のスペクトル。横軸が波長、縦軸が波長0.55μmで規格化した反射率の強度。波長が長くなるにつれて強度が上がると「赤くなる」と言う。逆に波長が長くなるにつれて強度が下がると「青く」なると言う。画像クリックで拡大表示(提供:Hasegawa et al. 2021より改変)

ポンペヤとユスティティアの赤さは、太陽系外縁天体と同様に、複雑な有機化合物によるものだと考えられる。また、一般的に楕円軌道を描く彗星とは異なり、どちらも比較的真円に近い軌道を持つ。これらのことから、ポンペヤとユスティティアは太陽系初期における「ミキシング」で外縁から移動してきたというのが長谷川さんたちの見方だ。ミキシングとは、誕生から間もないころの太陽系で木星のような大惑星の移動が起こり、これが重力場を変化させて小天体の移動を引き起こしたという考え方である。

小惑星帯やトロヤ群(木星軌道上の小惑星)の小惑星にも、異なる場所で誕生したと考えられる複数のグループが存在するが、現在ではその分布には明確な境界が存在しない。これもミキシングの結果だと考えられている。

太陽系の進化図
太陽系の進化図(提供:Neve&Vernazza2019とDeMeo&Carry2014を参考に作成、(天体画像)NASA、(リュウグウ画像)JAXA)

ポンペヤとユスティティアには大量の氷が残されていると思われる。その氷がなぜほとんど蒸発せずに現在に至ったのかは明らかでないが、研究チームは表面の物質が断熱材のような役割を果たした可能性を指摘している。また、直径100kmを超える小惑星は誕生から現在まで衝突を経験してない可能性が高いとされる。ポンペヤはこの基準を超えており、ユスティティアは少し小さいが、幸運にも衝突を免れたのかもしれない。

木星軌道より内側という比較的アクセスしやすいところにあり、太陽系外縁の情報を保持するこれら2つの小惑星は、今後の探査のターゲットとして注目されそうだ。

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