岩石天体衝突で発生する揮発性ガスの新分析法を開発

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岩石天体同士が高速で衝突した際に起こると予測されてきた「衝突脱ガス」現象について、新たな化学分析法が開発され、火星で実際に同現象が起こり得ることが実証された。

【2019年7月11日 千葉工業大学JAXA宇宙科学研究所

太陽系の岩石天体同士が秒速数km以上の高速度で衝突すると、衝突地点の岩石は加熱され、含まれていた水蒸気や有機物などの揮発性成分が失われる。このような現象は「衝突脱ガス」と呼ばれ、地球大気の形成や海の発生、6500万年前の恐竜絶滅事件に代表される環境大変動の原因として古くから研究されてきた。

天体衝突で発生する超高圧・高温条件を再現するには、「二段式軽ガス衝撃銃」と呼ばれる装置で実際に高速飛翔体を衝突させることが有効である。しかしこの装置では、加速時に発生する化学汚染ガスが実験系を汚染してしまう問題があり、衝突脱ガスの研究で用いることができていなかった。

千葉工業大学惑星探査研究センターの黒澤耕介さんたちの研究チームは、化学汚染の影響を受けずに衝突発生ガスを分析する「2バルブ法」という新手法を開発した。この手法により、装置由来の化学汚染ガスを飛翔体質量の0.01~0.1%まで抑えることに成功した。

高速度衝突実験装置の概略図
高速度衝突実験装置の概略図。2バルブ法では、2つのゲートバルブと二段式水素ガス銃を、事前検討と予備実験で決定した時間差をつけて信号制御する。これにより銃由来の化学汚染ガスを遮断し、衝突発生ガスのみを四重極質量分析計(ガス分析装置)に送って計測することができる(提供:プレスリリースより)

黒澤さんたちは2バルブ法を用いて、過去に干上がった火星の古い塩湖への天体衝突を想定した、岩塩と二水石膏を用いた衝突脱ガス実験を実施した。そして、火星への典型的な衝突の際に、岩塩からは塩化ナトリウムの蒸気が、二水石膏からは水蒸気が発生することを実証した。これは、古い塩湖に固定された揮発性成分が天体衝突によって再び大気水圏に戻されることを意味するものであり、天体衝突が火星上での物質循環・化学反応を促すことを示唆する結果である。

過去に干上がった火星の古塩湖への天体衝突を想定した、岩塩と二水石膏を用いた衝突脱ガス実験の様子(提供:千葉工業大学 惑星探査研究センター)

ガス分析結果の例
ガス分析結果の例。(a)岩塩を標的にした場合に発生した塩化ナトリウム蒸気分圧の変化、(b)二水石膏を標的にした場合に発生した水蒸気分圧の変化。岩塩は31万気圧、二水石膏は11万気圧の衝撃圧力がかかった場合にガスを放出することがわかる。この衝撃圧力は火星への典型的な天体衝突条件で容易に達成される(提供:プレスリリースより)

2020年末には探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウの試料を持ち帰る。リュウグウもしくはその母天体が衝突脱ガスを経験している可能性があることを踏まえて、リュウグウを想定した模擬物質への衝突脱ガス実験も実施される予定だ。実験で得られる結果は、リュウグウの研究を進めるうえで不可欠な基礎データになると期待される。

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