火星南極の地下湖、再観測でも確認
【2020年10月5日 Nature News/ヨーロッパ宇宙機関】
2018年、ヨーロッパ宇宙機関の火星探査機「マーズエクスプレス」の観測から南極の氷の下に大きな湖が検出されたことが発表された(参照:「火星の南極の地下に液体の水を検出」)。火星の表面では液体の水は見つかっておらず、このニュースは驚きを持って迎えられると同時に疑う声もあった。
伊・ローマ・トレ大学のSebastian Emanuel Lauroさんたちの研究チームは、さらなる観測を重ねた結果、2018年に報告された湖の存在を再確認しただけでなく、さらに3か所で地下湖を発見したことを発表した。観測に使われたのは、前回同様、マーズエクスプレスに搭載されている「地表下および電離層探査レーダー測定器(MARSIS)」である。MARSISは、惑星の表面と地下の物質の層へレーダーを照射し、跳ね返ってくる電波から、特定の場所にどんな物質が存在し、それが岩石か氷か液体なのかなどを調べることができる。最初の発見は2012年から2015年にかけて実施された29の観測結果に基づいていたが、今回は2012年から2019年までの計134の観測から得られた広範囲なデータを用いている。
地下湖は7万5000平方kmもの範囲(熊本県の総面積ほど)に広がっているという。2018年に見つかっていた最大の湖は20km×30kmほどの大きさで、数kmサイズの小さな湖3つがそれを囲んでいる。
火星には十分な大気がないため気圧が低く、惑星の表面で水が液体の状態で存在することはできない。しかし、数十億年前には地表に存在していた海や湖の名残として、表面下に水が留まっているはずだと長らく考えられてきた。そうした場所には火星の生命が生息しているかもしれない。地球でも、南極の氷の下にある氷底湖に生物が存在している。
ただ、火星の地下湖は生物にとって塩辛すぎる可能性が高い。低温下でも水が凍ってないということは、それなりの量の塩分が溶けて凝固点を下げているはずだ。また、火星の地熱は地表の氷を溶かすには十分でなく、新たな水が地下に供給されているとは考えられない。
米・モンタナ州立大学の環境科学者であるJohn Priscuさんによると、塩分濃度が海水の5倍程度の湖なら生命は生きながらえるが、塩分濃度が海水の20倍近くなると生物はいなくなるという。「南極のしょっぱい水たまりには、それほど活動が活発な生物はいません。塩漬けになっているのです。火星でも同様かもしれません」(Priscuさん)。
2018年の発表時と変わらず、地下湖の存在自体を疑う研究者もいる。
米・アリゾナ大学の惑星科学者で、NASAの火星探査機「マーズ・リコナサンス・オービター(MRO)」に搭載されている浅部レーダー(SHARAD)科学チームのJack Holtさんは、最新のデータ自体は良いものだが、その解釈については確信は持てないと話している。「湖が存在するとは思いません。ここには塩湖を維持できるほどの熱流がないのです。その塩湖が極冠の下にあったとしてもです」(Holtさん)。
「検出されたのが本当に液体の水だったとして、それは溶けかけの氷やぬかるんだ泥のようなものではないでしょうか」(米・パデュー大学 Mike Soriさん)。
今年7月に打ち上げられた中国の火星探査機「天問1号」によって、その主張が確認できるかもしれない。天問1号は、2021年2月に火星周回軌道へ入り、周回軌道上からの探査に加えて、表面にも着陸して探査を行う。探査機には、MARSISに似たレーダー計測器も搭載されている。
「かつて、火星には大量の水があったかもしれません。そして、水が存在したのなら、生命が存在したかもしれません」(ローマ・トレ大学 Elena Pettinelliさん)。懐疑的な意見もある一方で、これらの湖が火星が湿潤だったころの名残だという見込みはわくわくする可能性である。
〈参照〉
- Nature News:Water on Mars: discovery of three buried lakes intrigues scientists
- ESA:Mars Express finds more underground water on Mars
- Nature Astronomy:Multiple subglacial water bodies below the south pole of Mars unveiled by new MARSIS data 論文
〈関連リンク〉
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