長周期彗星の軌道は「空黄道面」にも集中
【2020年10月6日 RISE月惑星探査プロジェクト】
ハレー彗星(1P)やチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)のように、歴史上何度も回帰(太陽への接近)が観測された彗星がある一方で、今年話題となったネオワイズ彗星(C/2020 F3)のように次の回帰が数千~数万年以上先と予測され再び観測できない彗星もある。公転周期が200年より長い彗星は「長周期彗星」と呼ばれ、太陽系外縁の球殻状領域「オールトの雲」からやって来ると考えられている。
地球は太陽の周りをほぼ円軌道で公転しており、その公転面を「黄道面」と呼ぶ。地球以外の惑星や大半の小惑星もほぼ黄道面に沿った軌道を持っている。一方、長周期彗星の中には、その軌道面が黄道となす角度である「軌道傾斜角」が大きい、つまり軌道が大きく傾いたものも多い。それこそが、長周期彗星の巣であるオールトの雲が平らではなく球殻状であるという根拠だ。
そのような軌道傾斜角の大きい彗星も、約45億年前に太陽系が誕生した直後は、他の惑星などと同じような軌道を持つ小天体だったと考えられる。しかし長い時間のうちに惑星や天の川銀河からの力を受けて軌道が大きく変化し、遠方のオールトの雲に運ばれた。その後、再び惑星領域に戻ってきたところで、長周期彗星として観測されるのだ。
これまでの研究では、約45億年におよぶ軌道進化の過程で初期の軌道情報は完全に失われるため、彗星の軌道傾斜角の分布には偏りがないと考えられていた。しかし、オールトの雲を形作る天体は最初から球殻状に分布していたわけではなく、天の川銀河からの力がオールトの雲に均等に働くわけでもない。オールトの雲の起源と進化を考えると、長周期彗星が空間的に一様に分布しているとは考えにくい。
そこで、産業医科大学の樋口有理可さんは、長周期彗星の軌道の「形の変化」と「向きの変化」の関係について天体力学を用いた解析計算を行った。その結果、オールトの雲からやって来る長周期彗星の軌道の向きが、特定の2つの面に集中すると予測した。一つは黄道面であり、もう一つはこの研究で「空黄道面(くうこうどうめん)」と名付けられた、銀河面に対して黄道面を反転させた面である。さらに、その結果が天の川銀河からの重力の効果をよく再現していることが数値計算によって確認された。
この理論的予測が観測と一致しているかを確認するために長周期彗星の軌道軸の向きを調べたところ、確かに黄道面と空黄道面付近へ集中していることが示された。
長周期彗星は地球にかなり近づいて明るくならないと発見することが難しいため、観測できる期間は短く、発見してから準備を始めても遅いということもあった。今回の研究結果をもとに、長周期彗星がやって来る方向が予測できるようになれば、遠い距離にある彗星を早い段階で発見でき、尾やコマが現れる前の状態についての観測から情報を得ることができると期待される。
〈参照〉
- RISE月惑星探査プロジェクト:オールトの雲からやってくる彗星の分布・銀河座標に浮かぶもうひとつの黄道面
- 国立天文台:長周期彗星が作るもう一つの黄道面
- The Astrophysical Journal:Anisotropy of Long-period Comets Explained by Their Formation Process 論文
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