アレシボ天文台の305m電波望遠鏡が解体へ
【2020年11月27日 アメリカ国立科学財団】
プエルトリコにあるアレシボ天文台の電波望遠鏡は、直径305mの鏡面と、高さ約140mの3基のタワーにつながれたケーブルから吊り下げられている900tの受信機から構成されている世界最大級の電波望遠鏡だ。
1963年の完成以来、電波天文学や太陽系科学、ジオスペース(地球近傍の宇宙空間)の研究などをけん引してきた。初めての系外惑星の発見や、1993年のノーベル物理学賞の理由でもある連星パルサーの発見など、成果は多岐にわたる。中でも、1974年にヘルクレス座の球状星団M13に向けられて「アレシボ・メッセージ」を発信し、地球外知的生命体からのメッセージの受信を試みたSETI計画が有名だ。
305m電波望遠鏡はこれまで、度重なるハリケーンや地震などの自然災害に見舞われてきた。そんな中、2017年のハリケーンによる被害の復旧作業中だった2020年8月10日にサポートケーブルの一つが破損し、鏡面にぶつかったことで約30mに及ぶ亀裂が入ってしまった。
その後、安全を最優先に調査と修理が進められてきたが、交換用の補助ケーブルと仮ケーブルの手配中であった11月6日にメインケーブルも破損した。この破損は想定外の出来事であり、残りのケーブルもかなり老朽化している可能性があるとされた。
そして、専門会社3社による詳しい調査の結果、これらの破損箇所は致命的な損傷であること、修理作業には危険を伴うこと、もし修理を行ったとしても長期的な安定した運用には欠陥があることから、望遠鏡は解体されることが決定した。
廃止されるのは305m電波望遠鏡のみであり、想定外の崩壊が起こったとしても天文台の他の部分が安全に保存されることを目的としている。今後は安全性や環境面、法的な配慮をしながら計画が進められ、望遠鏡の解体が始められる。望遠鏡の廃止後にもいくつかの施設が残されてジオスペース研究等で運用されるほか、これまでに収集されたアーカイブデータの分析等の業務も継続される見通しだ。
〈参照〉
- National Science Foundation:NSF begins planning for decommissioning of Arecibo Observatory’s 305-meter telescope due to safety concerns
- University of Central Florida:Arecibo Observatory Telescope to be Decommissioned After Second Cable Break
〈関連リンク〉
関連記事
- 2020/12/02 アレシボ電波望遠鏡が崩壊
- 2017/12/27 地球近傍小惑星ファエトンの姿をレーダーで観測
- 2014/07/17 はるか遠くから届いた謎の高速電波バースト
- 2001/05/19 金星の地形を詳細にとらえる 電波望遠鏡によるレーダー観測