宇宙最初の星探し、宇宙赤外線背景放射をロケットで観測
【2021年6月11日 九州工業大学】
宇宙の歴史をひも解くためには、宇宙初期の天体を見つけ出し、それらがいつどのようにして形成され、現存する星や銀河へと進化したかを研究することが重要となる。宇宙初期天体は紫外線で明るく輝いていたと考えられているが、その紫外線は宇宙膨張に伴う赤方偏移によって波長が伸び、現在は近赤外線として観測される。
しかし、宇宙最初期の天体は暗すぎるため、個別に観測することは困難だ。そこでJAXA宇宙科学研究所などが参加する国際研究グループでは、大気圏外へ打ち上げた観測ロケットに搭載した装置で赤外線観測を行う「CIBER実験」を2009年から実施し、宇宙初期天体や遠方銀河からの光が折り重なった「宇宙赤外線背景放射」による観測・研究を進めてきた。
他の研究を含めたこれまでの観測によると、宇宙赤外線背景放射の明るさは、既知の天体による寄与を全て考慮しても説明できない。これは宇宙最初の星々や原始ブラックホールの残光といった未知の天体の存在を示す結果だという説もあるが、CIBER実験のデータからは、未知の天体の多くは近傍宇宙の銀河ハローに隠れている古い星々のような天体である可能性が高いとされ、宇宙初期からの寄与は多くはないことが示唆された。
CIBER実験の10倍以上高い感度で宇宙赤外線背景放射を観測し、わずかに含まれる宇宙初期の放射成分を検出することを目指して、関西学院大学の松浦周二さんを中心とする国際研究グループでは「CIBER-2実験」プロジェクトを立ち上げて望遠鏡やカメラの開発を進めてきた。CIBER-2では集光力や解像度がアップしただけでなく、可視光線観測を加えてスペクトルの形状を見ることにより、宇宙赤外線背景放射への初期天体の寄与率を明確にすることも可能になっている。
6月7日(米国山岳部標準時)、米・ニューメキシコ州にあるホワイトサンズ・ミサイル実験場から、装置を搭載したロケットが打ち上げられた。ロケットは地球の大気の影響を受けない高度325kmに到達し、約5分間の観測によって6つの測光フィルタでの撮像や宇宙赤外線背景放射のスペクトル測定が行われた。装置はパラシュートで着陸し回収されており、次回以降も繰り返し使用される。
今後も実験を積み重ね、データの精度を向上させる予定だ。宇宙赤外線背景放射の理解が進み、宇宙初期天体についての知見が得られることが期待される。
〈参照〉
- 九州工業大学:宇宙で最初に生まれた星々の発見に挑戦 ― NASAのロケット使い 宇宙赤外線背景放射を観測 ―
- 光赤天連シンポ 2020 大学等プロジェクト報告:宇宙赤外線背景放射プロジェクト CIBER-2 / EXZIT
〈関連リンク〉
- NASA - Sounding Rocket Program Office:36.281 UG ZEMCOV/RIT Cosmic Infrared Background ExpeRiment (CIBER) 2
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