火星地表の炭素に、生命の痕跡と似たパターン

このエントリーをはてなブックマークに追加
NASAの火星探査車キュリオシティがゲールクレーターで採取したサンプルに含まれる炭素の同位体比は、地球では生物の活動後に残る炭素の割合に類似していることがわかった。

【2022年1月25日 NASA JPL

炭素は地球の生命にとって欠かせない元素だが、動物が食事を消化したり植物が光合成を行ったりするときの反応では、炭素を「好き嫌い」する傾向がある。同じ炭素原子でも、軽い炭素12(12C)を選択的に取り込んで、わずかに重い炭素13(13C)を避けるのだ。そのため地球では、炭素12の割合が標準より多い物質が存在した場合、それが生命活動の跡である可能性がある。

では、同じことが火星で発見された場合はどうだろう。

米・ペンシルベニア大学のChristopher Houseさんたちの研究チームは、NASAの火星探査車「キュリオシティ」がゲールクレーター内の5地点で採取した24の岩石サンプルを、同探査車に搭載された機器で分析した。岩石を加熱して出てきたメタン(CH4)中の炭素を調べた結果、これまで火星の大気や火星由来の隕石を分析したときと比べると、半分以上のサンプルで炭素12の割合が多かった。

「私たちが火星で見つけた炭素の痕跡は、地球であれば生命活動で作られるものでしょう。同じ説明が火星に適用できるのか、他の説明があるのかを知る必要があります。火星は全く違うところですからね」(Houseさん)。

サンプル収集のために開けられた穴「ハイフィールド・ドリル・ホール」
ゲールクレーターの中央に位置するシャープ山の裾野にある尾根「ベラ・ルービン・リッジ(Vera Rubin Ridge)」で、キュリオシティがサンプルを収集するために開けた「ハイフィールド・ドリル・ホール(Highfield Drill Hole)」と呼ばれる穴(提供:NASA/JPL-Caltech/MSSS、以下同)

研究チームは、サンプルに炭素12が多くて炭素13が少なかった理由について3つの仮説を立てている。まず、地球のように生命活動による可能性だ。太古に火星の地表にいたバクテリアが、生命特有の炭素同位体比を示すメタンを放出し、そのメタンが大気中で紫外線と反応することでより大きく複雑な分子が生成された。生成された分子は表面に降り注ぎ、現在に至るまで火星の岩石に保存されていた。

残る2つの説は生物を必要としない。一つは、火星大気中の二酸化炭素に紫外線が作用することで、炭素12の割合が多い有機物が生成されて岩石に取り込まれるという考えだ。もう一つは、数億年前に太陽系がたまたま炭素12の割合が多い巨大な分子雲の中を通過して、その一部が火星の地表に降り注いだというものである。

ゲールクレーター内の「スティムソン砂岩層」
キュリオシティが2020年4月に撮影したゲールクレーター内の「スティムソン砂岩層」など。ここで採取されたサンプルも炭素12が多く炭素13が少なかった

結論を下すにはさらに多くのサンプルを分析する必要がありそうだ。昨年2月からジェゼロクレーターを調べているNASAの探査車「パーサビアランス」は、そのようなサンプルを探すのに最適だと目されている。