生物の遺伝情報を担う主要核酸塩基を全て隕石から発見
【2022年5月9日 北海道大学】
地球上の生命の材料となる有機化合物は、隕石や彗星などによって地球外からもたらされたという説がある。実際にこれらの天体から、タンパク質を構成するアミノ酸が検出されている。しかし、生命の遺伝子となるDNAやRNAを構成する核酸塩基の検出は、これまで限定的だった。
主要な核酸塩基にはDNAの二重らせん構造形成に不可欠なアデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)という2つのペアと、RNAでTの代わりに使われるウラシル(U)の5種類がある。これら全てを含む多種類の核酸塩基が、隕石中から初めて同時に検出された。
北海道大学低温科学研究所の大場康弘さんたちの研究チームは、1兆分の1g程度の核酸塩基を検出・同定できる独自の分析法でマーチソン隕石・タギッシュレイク隕石・マレー隕石を調べた。これら3種はいずれもアミノ酸などの有機化合物を豊富に含むことで知られる炭素質隕石だ。
分析の結果、全ての隕石から核酸塩基が検出された。とくにマーチソン隕石は核酸塩基の種類・量ともに豊富で、これまで未検出だった10種を含む18種類が検出されている。さらに核酸塩基以外の窒素複素環化合物も20種類同定されたが、大半が隕石からは初めて検出されたものだった。
太陽系形成前の星間分子雲において、光化学反応によって様々な核酸塩基が生成されうることは先行研究で知られていた。こうして作られた生命の材料が、隕石などに残されて地球へ供給されたことを、今回の研究結果は示唆している。地球にもたらされた核酸塩基類がどのようなプロセスでRNAやDNAを作っていくのかは今後の研究課題だ。
探査機「はやぶさ2」が炭素質小惑星リュウグウのサンプルを回収しており、2023年にはNASAの探査機「オシリス・レックス」が同様に小惑星ベンヌのサンプルを地球へ持ち帰る予定だ。今回確立された核酸塩基の超高感度分析法は、これらのサンプルにも適用できる。サンプルを通じて両天体の現場検証をすることで、原初の地球における有機的な物質進化の理解が飛躍的に前進すると期待される。
〈参照〉
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