急増光する超高輝度天体発生の瞬間

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通常の超新星よりも数十倍明るく、増光ペースが極めて速い突発天体が発生直後に見つかった。正体としては特殊な超新星やブラックホールに引きちぎられた星などが考えられる。

【2022年7月19日 カブリIPMU

一般的な超新星の明るさは銀河1つに匹敵するほどだが、一部にはその数十倍も明るくなる超高輝度超新星が存在する。さらに、爆発開始から明るさのピークに達するまでは通常10日以上かかるが、わずか数日で極大になるような突発天体も見つかるようになった。こうした天体には既知の超新星と異なるメカニズムが作用していると考えられ、研究の対象となっている。突発天体の発生直後から観測を続けることが重要だが、容易なことではない。

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構の姜継安さん(現・国立天文台)が率いる国際的な突発天体サーベイプロジェクト「MUltiband Subaru Survey for Early-phase Supernovae(MUSSES)」は突発天体を増光前にとらえることを目指し、すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)」で観測を行っている。

MUSSESは2020年12月に20個の突発天体をとらえた。その一つ、くじら座方向の「MUSSES2020J(AT 2020afay)」は、2020年12月11日にまだ増光する前段階で発見され、観測中に急速に明るさを増していった。距離は80億光年以上あり、実際の明るさは通常の超新星の約50倍であると明らかになった。こうした特徴は、2018年に発見された特異な超新星「SN 2018cow」(AT 2018cowとも)と非常によく似ている。研究チームはこのような特異な突発天体を「Fast Blue Ultraluminous Transient(FBUT)」(急増光する青い超高輝度の突発天体)と呼ぶことを提唱する。

FBUT天体「MUSSES2020J」と典型的な突発天体現象の光度曲線
FBUT天体「MUSSES2020J」とその他の典型的な突発天体現象の光度曲線(天体の明るさの時間変化)を比較した概略図。(右下)HSCのg, r, iバンドの3色合成画像で、MUSSES2020Jが観測された銀河が中央に写っている(青い×印がMUSSES2020Jの位置)(提供:東京大学Kavli IPMU、以下同)

姜さんたちはMUSSES2020JなどのFBUT天体を理論モデルから考察し、そのメカニズムを絞り込んでいる。「FBUT天体の起源として非常に活動的なコンパクト天体が潜んでいることはほぼ疑いようがなく、これがFBUT天体が通常の超新星と非常に異なる理由であると考えられます。可能性としては、大質量ブラックホールの潮汐力により恒星が破壊される現象や、大質量星の崩壊に伴いブラックホールや強磁場中性子星が形成される現象などが挙げられます」(京都大学 前田啓一さん)。

FBUT天体の起源の想像図
今回発見されたFBUT天体について、提唱されている複数の起源を描いた想像図

また、研究チームの野本憲一さん(Kavli IPMU)は、可能性の一つである脈動型電子対生成超新星「pulsational pair-instability supernova(PPISN)」に着目しており、次のように説明している。「MUSSES2020Jは、AT 2018cowと似たような光度曲線を示しています。AT 2018cowの光度曲線をよく再現する有力なモデルの一つは、PPISNの噴出物と周囲星物質の相互作用です。PPISNは、非常に重い星が爆発してブラックホールを形成し、外層をジェットのような形で放出するものです。周辺物質の量の違いによりMUSSES2020Jの光度曲線を説明できる可能性があります」。

研究チームでは今後も引き続き、すばる望遠鏡をはじめとした世界中の望遠鏡を用いて突発天体の探査を行い、この謎に満ちた新しいタイプの突発天体の起源を解明していく予定だ。「HSCのおかげで、私たちはたいへんまれで不思議な発光現象をたまたまとらえることができました。天体の起源は大爆発し損ねた恒星の終末かもしれませんし、ブラックホールに関係した現象かもしれません。このような不思議な現象が見つかることがわかったおかげで、次回体制を整えて正体を解明できるのではと期待しています」(Kavli IPMU/東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター 土居守さん)。