金星大気を解析する新手法、エネルギー変換のメカニズムと効率を解明
【2025年2月26日 理化学研究所】
金星は大きさと質量が地球に似ていて、地球の姉妹星と呼ばれることがある。しかし、金星は厚い二酸化炭素の大気を持ち、地表付近は高圧であるとともに温室効果によって摂氏460度もの高温環境となっている。さらに自転周期が約243日と極端に長く、その自転速度の60倍も速い高速風「スーパーローテーション」が吹いている。大きさと質量以外では、金星と地球は全く異なる惑星だ。
このような金星の環境、とくに大気について理解することは、地球の気象や気候、さらには系外惑星についての理解を深めるうえでも重要だ。過酷な環境に加えて硫酸の雲に覆われていることもあり、金星の観測は困難だが、2015年12月から金星を周回した探査機「あかつき」などによって、様々なことが明らかにされてきた。
(左)探査機「あかつき」が赤外線でとらえた金星の夜領域の擬似カラー画像。(右)「あかつき」の想像図(提供:(左)JAXA / ISAS / DARTS / Damia Bouic、(右)JAXA)
探査と並行して、金星大気の数値シミュレーションによる研究も進められている。大気の運動や温度の変化を計算するモデル「AFES-Venus」は「あかつき」の観測開始前から開発されており、このモデルを利用することで「あかつき」が金星で観測した巨大な筋状構造が再現されるなどの研究成果が得られている。
理化学研究所のリャン・ジェンユウさんたちの研究チームはAFES-Venusによる金星大気大循環の数値シミュレーションの結果を元にして、金星大気内でどのように太陽からのエネルギーが惑星全体に輸送・変換されているかという大気大循環の解明に挑んだ。
リャンさんたちは2つのシミュレーションの差を使って、金星大気中でのエネルギー変換を解析する新たな方程式を導き出した。この方程式を用いると、位置エネルギーから運動エネルギーへの変換メカニズムとその変換効率を明らかにでき、さらに緯度帯だけでなく経度方向のエネルギー変換を調べることもできる。
この新しい方程式でシミュレーション解析を行ったところ、金星大気の雲層の中高緯度で、南北の温度差による位置エネルギーの不安定を解消しようとする運動に伴うエネルギーの変換をもたらす「傾圧変換」が大きく働いていることが明らかになった。傾圧変換は地球の気象においても中高緯度の温帯低気圧や移動性高気圧の生成メカニズムとして重要な役割を果たすものであり、これが金星でも重要であることを初めて示した結果である。また、金星の「午前」のサイドで南北の温度差が大きくなり、傾圧変換が強化されることも初めて明らかになった。
金星大気中のエネルギー変換の模式図(提供:理化学研究所リリース、(金星の画像)JAXA)
AFES-Venusは過去に観測された金星大気の多様な現象を再現していることから、今回の結果の妥当性、すなわち明らかになったエネルギー変換が実際の金星を模擬している可能性は高いと考えられる。今回の解析手法は、金星だけでなく地球や他の惑星の大気運動のメカニズムを解明するうえで有用であり、様々な惑星の大気循環の理解が進むことが期待される。
〈参照〉
- 理化学研究所:金星大気を解析する新手法 - Bred Vectorエネルギー方程式による運動メカニズムの解明
- Geophysical Research Letters:Unveiling Energy Conversions of the Venus Atmosphere by the Bred Vectors 論文
〈関連リンク〉
- 金星探査機「あかつき」:
- アストロアーツ:
- 【特集】宵の明星 金星(2024年 冬~2025年)
- 天体写真ギャラリー:金星
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