世界初、原始星から噴き出す竜巻状高速ガス流を発見

このエントリーをはてなブックマークに追加
鹿児島大学を中心とする研究グループが国立天文台のVERA望遠鏡を用いて、ぎょしゃ座の原始星「S235AB」を1年あまりにわたり継続観測し、星から吹き出す高速ガス流が竜巻状の回転運動を伴っていることを発見した。

【2015年9月30日 鹿児島大学

太陽のような恒星はガスが集まって形成されるが、そのガスはもともと様々な運動をしているため一度に全体が集まることはできず、かなりの量のガスが形成途上の恒星(原始星)の周囲を巡る円盤となる。この円盤の回転にブレーキがかからないと、円盤から原始星へガスが降り積もることができず、星はそれ以上成長できない。

一方、原始星からは高速のガスが円盤と垂直方向に吹き出している(双極ガス流)。その双極ガス流が磁場の働きによって回転することで、その反動として円盤にブレーキがかかるのではないかという説が提唱されてきたが、これまで決定的な証拠は得られていなかった。

鹿児島大学の半田利弘さんらの研究グループは、太陽の11倍の質量を持つ生まれたての星「S235AB」に注目し、国立天文台のVERA望遠鏡を用いた観測を行った。S235ABはぎょしゃ座の方向の、天の川の中央線に沿ったところに位置しており、これは太陽系から見て天の川銀河の中心と反対方向に当たる。この星については、2方向にガスが吹き出していること、水分子が放つメーザー輝線を発していることなどがわかっている。

研究グループでは、2013年1月から1年3か月にわたって10回の観測を繰り返し、S235ABの年周視差を測定して、距離を5100光年と決定した。

VERA望遠鏡入来局のアンテナ
VERA望遠鏡入来局のアンテナ。同型のアンテナが全国4か所設置されており、全体で1つの望遠鏡を構成している(提供:鹿児島大学)

また、S235ABではメーザーを発している部分(メーザースポット)が毎回10個以上観測された。地球が動くことで生じる見かけの運動のほか、メーザースポット自体が運動しているために、観測ごとにメーザースポットの位置が動いていることも測定された。

距離が確定したことから、メーザースポットの見かけの動きが実際には秒速何kmに相当するかを求めることができる。さらに、メーザー輝線は発信源での周波数が確定しているため、観測される周波数がドップラー効果によってどれくらいずれているかを測定することで視線に沿った速度を知ることができる。つまり、一連の観測から、S235ABでのメーザースポットの動きを立体的にとらえることができるというわけだ。

測定できたすべてのメーザースポットの動きを説明できるモデルを検討したところ、メーザースポットが円筒状に分布し、軸に沿って一方向に運動しつつ、軸の周囲を回転しているとすれば良いということがわかった。原始星から噴出するガスは回転していることになる。

ガス流のモデル
回転しながら吹き出すガス流のモデル(提供:Burns et al.、論文が発表された「英国王立天文学会月報誌」より)

“水竜巻”の想像図
今回発見された“水竜巻”の想像図(提供:鹿児島大学)

今回の発見は、生まれてきた恒星がどのように成長していくのかを理解する上で、重要かつ先駆的な研究成果だ。半田さんは「長年の謎であった、恒星が形成される際に回転がどのように遅くなるのかについて、複数提唱されている説のどれが正しいのか決定的な答が出ることが期待できる」と述べている。