原始超銀河団を包む1億6000万光年以上の中性水素ガス

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115億年前の宇宙における中性水素ガスの分布を調べたところ、原始超銀河団「SSA22」でガスが1億6000万光年以上にわたって広がっていることが明らかになった。

【2017年3月29日 すばる望遠鏡国立天文台

様々な時代の宇宙において「銀河団」や「超銀河団」といった巨大構造を観測的に調べると、宇宙の大局的な「一様等方性」(方向による極端な偏りがないこと)を確かめたり、宇宙の大規模構造の種となる初期の密度ゆらぎの性質を理解したりすることができる。

こうした巨大構造の観測には、銀河の材料となるガスの分布を調べることが鍵となる。ガスは自ら光り輝くことがないため、その観測には背景の明るい天体の光がガスによって影絵のように暗くなる効果を利用する。とくに、ガス中の中性水素は背景にある天体からの光のうち特定の波長のみ吸収するため、背景天体のスペクトル中に特徴的な吸収線が現れる。

これまでの研究では、遠方でも非常に明るい「クエーサー」と呼ばれる天体が背景光として利用されてきた。しかし、観測できるクエーサーは数が限られているため、調べたい領域の中で一点のガス情報しか得られないことがほとんどであり、領域内でガスがどのような分布をして広がっているのかという「面」の情報を得ることは難しかった。

大阪産業大学の馬渡健さんたちの研究チームは、遠方宇宙の画像から中性水素ガスの分布を面的に調べる新しい手法を開発した。この手法では、宇宙でありふれた銀河を背景光として利用し、しかも特定の波長の光のみを通す狭帯域フィルターで撮られた画像を使用する。つまり、個々のクエーサーを分光観測していた従来の手法に比べ、広い領域におけるガスの分布を短時間で効率よく調べることができる。

研究手法の比較
(左)これまでの中性水素ガスの研究手法、(右)新しい研究手法(提供:大阪産業大学/国立天文台、以下同)

この手法を、すばる望遠鏡搭載の主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC)」で行った、115億年前の宇宙における大規模な銀河探査のデータに対して適用したところ、中性水素ガスの分布についてこれまでで最も広い視野の地図を複数の天域において描き出すことに成功した。

また、みずがめ座の方向にある「SSA22」領域という原始超銀河団(超銀河団の先祖)で中性水素ガス濃度が明らかに高いことがわかった。つまり、新しい銀河が生まれつつある原始超銀河団には、材料となる中性水素ガスがふんだんにあることがはっきりと確認されたことになる。

115億年前の銀河の分布と中性水素ガスの分布
(左上)115億年前の銀河の分布、(右の拡大図)中性水素ガスの分布。赤いほうで密度が濃い。水色の四角は原始超銀河団に含まれる銀河

さらに、原始超銀河団中では、必ずしも銀河が最も密集している部分にガスも多いというわけではないこともわかった。これは、中性水素ガスが個別の銀河の周囲にだけあるのではなく、原始超銀河団領域全体にわたって薄くのっぺりと広がっていると解釈できる。SSA22領域では中性水素ガスが探査領域全面にわたって多く見られるため、実際はさらに大きく1億6000万光年以上にわたって広がっていると考えられる。

これまで、過去の宇宙ほど物質の分布構造の濃淡は淡く、大スケールかつ高密度な構造は少ないと考えられてきたが、今回の解析から、1億6000万光年という超銀河団程度の大きさの構造が初期宇宙において既に存在することが明らかになった。

「原始超銀河団では濃いガスが予想よりはるかに広がって分布していることに驚きました。全体像を把握するためにはより広視野の狭帯域フィルター撮像観測が必要ですが、それはまさに現在活躍中のHSCが得意とするところです。SSA22を含む複数の原始超銀河団で、ガス分布と銀河分布の関係を統計的に調べていきます」(馬渡さん)。