ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた火星の衛星「フォボス」

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ハッブル宇宙望遠鏡が、火星の衛星「フォボス」が移動する姿をとらえた。

【2017年7月26日 NASA

フットボールのような形をした火星の第1衛星「フォボス」は、大きさが26.5×21.7×17.7kmで、太陽系内の最も小さな衛星の一つだ。公転周期は7時間39分と火星の自転周期(約24時間40分)よりも短いため、フォボスは火星の1日の間に3回、西から昇り東へと沈む。惑星の1日よりも短い周期で惑星の周りを回っている衛星は、太陽系内では唯一フォボスだけだ。

2016年5月の火星の地球最接近のころにハッブル宇宙望遠鏡がとらえたフォボス。22分間に撮影した13枚の画像から作成された動画(提供:NASA's Goddard Space Flight Center)

フォボスは1877年8月17日に、当時計画的な火星の衛星探しを行っていたアメリカ海軍天文台のアサフ・ホールによって発見された。ホールはフォボス発見の6日前に、フォボスより小さく外側を公転する衛星「ダイモス」も発見している。両衛星の名前はギリシャ神話の戦神アレースの息子の名に由来するものだ。

1969年、NASAの探査機「マリナー7号」が火星への接近飛行を行った際に、初めてフォボスがクローズアップで撮影された。1977年には探査機「バイキング1号」の周回機がフォボスの姿を初めて詳細にとらえ、衛星を粉々にするほどの威力を持っていたと思われる天体の衝突でできた大きな口を開けたクレーターの存在が明らかになった。

フォボスのクローズアップ画像から、この衛星が火星の重力によって引き裂かれつつあるらしいことがわかっており、衛星の表面に見られる複数の細長く浅い放射状の溝はそれを物語っているのかもしれない。同時に、フォボスは100年に約2mの割合で火星に落下しつつある。フォボスは3000万年から5000万年以内に、火星に衝突するか、またはバラバラに引き裂かれ火星を取り巻く環となると予測されている。

フォボス
NASAの探査機「MRO」が約6000kmの距離から撮影したフォボス(提供:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)

フォボスは火星の地表から約6000kmのところを周回しており、これは太陽系内の衛星の中では最も惑星に近い距離だ。これほど接近しているにもかかわらず、火星上から見るフォボスの大きさは地球から見る月の大きさの3分の1しかない。反対に、フォボスから見る火星は空の4分の1を覆うほどの大きさになる。

また、火星の表面からはフォボスが太陽を覆う現象を見ることができる。しかしフォボスが非常に小さいため、太陽が完全に覆われることはない。

フォボスの太陽面通過
NASAの探査車「キュリオシティ」がとらえた、フォボスの太陽面通過(金環日食)(提供:NASA/JPL-Caltech/Malin Space Science Systems/Texas A&M Univ.)

フォボスとダイモスの起源は論議の的だ。その組成と不規則な形を根拠に、小惑星帯からやってきて火星に捕らえられた天体だという説があるが、軌道や密度の点で問題がある。他の説としては、大きな天体が火星に衝突し、飛び散った破片が重力で集まってできたというものや、かつて存在していた衛星が破壊されてできた瓦礫からフォボスが形成されたというものが考えられている。

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