幻の「ほうおう座流星群」の構造と母彗星の活動度を解明
【2017年8月29日 総合研究大学院大学/国立天文台/国立極地研究所】
1956年、インド洋上で第1次南極地域観測隊により、突発流星群として「ほうおう座流星群」の大出現が観測された。流星群は彗星や小惑星が放出した、流星のもとになる塵の流れに地球が突入することで出現するが、ほうおう座流星群の場合はブランペイン彗星によって引き起こされたものと考えられた。しかし、1956年以降ほうおう座流星群は出現せず、ブランペイン彗星も行方不明になってしまったため、ほうおう座流星群はいつしか「幻の流星群」と呼ばれるようになっていた。
2003年、ある小惑星が発見され、軌道の解析からこの天体が長年行方不明となっていたブランペイン彗星であることが判明した。さらに、近年の「ダスト・トレイル理論」の確立によって、これまでの流星群の出現状況や今後の出現の予報が高精度でできるようになったおかげで、ほうおう座流星群が1956年に大出現した原因がわかっただけでなく、2014年にわずかではあるが再出現することが予測された。
この予測をもとに、2014年12月、総合研究大学院大学の藤原康徳さんと国立極地研究所の中村卓司さんを中心とするグループがアメリカ・ノースカロライナ州で、かわさき宙と緑の科学館の佐藤幹哉さんと国立天文台の渡部潤一さんを中心とするグループがスペイン領ラパルマ島にて、それぞれほうおう座流星群に属するとみられる流星の観測に成功した。これらの観測に加え、アメリカやカナダでとらえられたビデオ観測および電波観測のデータを解析したところ、予報どおりに流星群が出現したことが確認された。
2014年に出現した流星群のもとになった塵はブランペイン彗星が20世紀初頭に放出したものだと予報されていたが、データ解析からその予報が正しかったことが示され、当時のブランペイン彗星は地球からは彗星として観測されなかったものの、弱いながらも彗星としての活動を行っていたことが明らかになった。
また、1956年のほうおう座流星群の大出現は1819年のブランペイン彗星発見時に放出された塵がもとになったものだが、今回観測された流星の出現数から、20世紀初頭のブランペイン彗星(2014年の流星群のもと)の活動は18世紀中ごろから19世紀初頭の10分の1にも満たないものであったと推測される。
今回の研究結果は、流星群の活動状況から、そのもとになった彗星の活動状況を推測するという手法を適用した最初の事例であり、実際に推測が可能であることを示したものである。彗星、小惑星、流星体といった太陽系小天体の相互関係や進化を解明する大きな手がかりとなり、彗星の物理的な進化についての理解向上に役立つことが期待される。
〈参照〉
- 総合研究大学院大学:明らかになった幻の流星群の構造と親天体の活動度
- 国立天文台:明らかになった幻の流星群の構造と親天体の活動度~第1次南極地域観測隊の発見から58年ぶりの観測
- 国立極地研究所:明らかになった幻の流星群の構造と親天体の活動度~第1次南極地域観測隊の発見から58年ぶりの観測
- Publications of the Astronomical Society of Japan:Optical observations of the Phoenicid meteor shower in 2014 and activity of comet 289P/Blanpain in the early 20th century 藤原さんたちの論文
- Planetary and Space Science:Detection of the Phoenicids meteor shower in 2014 佐藤さんたちの論文
〈関連リンク〉
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