火星の衛星に火星のマントル物質

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火星の衛星「フォボス」と「ダイモス」が火星への巨大天体衝突によって形成されうること、両衛星を構成する物質の約半分が火星由来のマントル物質であることが、コンピューターシミュレーションによって示された。

【2017年9月1日 東京工業大学

火星の衛星「フォボス」と「ダイモス」は、半径が10km程度、質量が火星の約1,000万分の1と非常に小さい衛星だ。いびつな形状と表面スペクトルが、火星と木星の間に存在する小惑星と類似していることから、両衛星の起源は小惑星が火星の重力に捕獲されたもの(捕獲説)と長らく考えられていた。しかし捕獲説の場合、赤道面を円軌道で公転するという現在の衛星の軌道を説明することは極めて難しい。

「フォボス」と「ダイモス」
火星の衛星「フォボス」(左)と「ダイモス」(右)(提供:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)

一方、火星の北半球に存在する太陽系最大のクレーター「ボレアレス平原」は巨大天体の衝突(ジャイアントインパクト)によって形成された可能性が高いことがわかっている。さらに近年のコンピューターシミュレーションによって、このクレーターを形成しうる巨大衝突で飛び散った破片が集まることで最終的に2つの衛星をも形成しうることが明らかになっていた(参照:「火星の衛星は巨大天体衝突で形成可能、シミュレーションで解明」)。

火星への巨大天体衝突のイメージ
火星への巨大天体衝突のイメージ(提供:東京工業大学プレスリリースより、以下同)

東京工業大学の兵頭龍樹さんたちがフォボスとダイモスを形成する巨大衝突の超高解像度3次元流体数値シミュレーションを行ったところ、破片粒子のサイズが0.1μmと100μmから数m程度になることがわかった。また、0.1μm程度の微粒子は、観測されている衛星の滑らかな表面反射スペクトルの特徴と矛盾しないものであることも明らかにした。

さらに、衛星の構成物質の約半分は火星に、残りの半分は衝突天体に由来しており、火星物質は火星地表面から50~150kmの深さから掘削された火星マントル由来の物質であることが示された。衛星を作ったとされる衝突天体の質量は火星の数%(地球の1,000分の1)、衝突速度は同6km程度と小さめであったと考えられることから、衛星を形成する破片は2,000K程度の温度でほとんど蒸発せず、火星起源物質と衝突天体起源物質の混ざり合いは少ないとみられ、破片は当時の火星の物質情報を保存していると期待される。

シミュレーションの時間スナップショット
大衝突シミュレーションの時間スナップショット。上の図で(赤色と黄色)最終的に火星となる粒子、(水色)最終的に火星衛星となる粒子、(白色)火星の重力圏から飛び出してしまう粒子、を示す。下の図は粒子の温度を表す

今回の研究により、フォボスとダイモスが火星への巨大天体衝突によって形成可能であり、観測される衛星表面の反射スペクトルの特徴も説明できることが明らかになった。また、両衛星には火星由来の物質が多く含まれ、衝突当時の火星マントル物質も含まれる可能性も示された。

宇宙航空研究開発機構では火星の衛星に探査機を送り衛星の物質を地球に持ち帰る計画「MMX(Martian Moons eXploration)」を検討しており、2024年に打ち上げ、2029年の地球への帰還を目指している。今回の研究で示した巨大天体衝突説が正しければ、MMX計画によって火星の表層物質だけでなく火星マントル物質までを衛星から手に入れることが可能となり、太陽系形成史を紐解く物質科学的な鍵となることが期待される。