銀河団の中心でふらつく大質量銀河

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大質量の銀河団中心銀河が銀河団の重心に対して「ふらついて」いることが明らかになった。この発見は予想外で、現在のダークマターに関する標準理論の予測に反するものだ。

【2017年11月1日 ヨーロッパ宇宙機関

数百個から数千個の銀河が集まっている銀河団の中心には、非常に大質量の銀河団中心銀河(Brightest cluster galaxy; BCG)が存在している。また、個々の銀河や銀河団全体は、電磁波では観測できないダークマター(暗黒物質)のハローに取り囲まれている。

銀河団「Abell S1063」
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた、つる座の方向約40億光年彼方に位置する銀河団「Abell S1063」(提供:NASA, ESA, and J. Lotz (STScI))

ダークマターに関する標準的な理論モデル「冷たい暗黒物質モデル」によると、銀河団が合体という激しい現象のあと落ち着いた(緩和した)状態になると、銀河団全体に広がるダークマターの強い重力の影響でBCGは銀河団の中心から動かないと予測されている。

しかし、スイス・フランス・イギリスの研究チームがハッブル宇宙望遠鏡を使って観測した10個の銀河団を分析した結果、BCGは予測に反し銀河団の中心に停まっていないことが明らかになった。銀河団による重力レンズ現象を利用してダークマターのハローを含めた銀河団の質量分布の中心を調べ、これを銀河団の目に見える部分の中心、つまりBCGの位置と比較したところ、最大で4万光年ほどずれていたのだ。

「BCGが銀河団ハローの中心の周りで『ふらつき』を起こしていることを発見しました。冷たい暗黒物質モデルが予測する“銀河団中心の高密度領域”というよりはむしろ、密度の低い中心領域があることを示しています」(スイス連邦工科大学ローザンヌ校 David Harveyさん)。

この「ふらつき」が未知の天体物理学現象ではなくダークマターのふるまいの結果だとすると、ダークマターの標準モデルと相反して、ダークマターの粒子同士は相互作用し得るということでしか説明がつかなくなり、現在のダークマターに関する理解と大きく矛盾する。今回の観測結果は、ダークマターの謎を解くために新たな基礎物理理論が必要とされていることを示唆しているのかもしれない。

「『ユークリッド・サーベイ』のような、より広範囲なサーベイ観測を楽しみにしています。そうすれば、BCGのふらつきが新たな天体物理学現象の結果なのか、それとも新しい基礎物理によるものかを判断することができます。いずれにしてもエキサイティングです」(スイス連邦工科大学ローザンヌ校 Frederic Courbinさん)。

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