火星の砂嵐とガス散逸の関連性
【2018年1月30日 NASA JPL】
数十年にわたる火星の観測から、火星の北半球が春や夏の時季に多くの領域で砂嵐が発生する傾向があることが明らかになっている。ほとんどの場合はこうした地域的な嵐は鎮まり全球規模の砂嵐になることはないが、1977年、1982年、1994年、2001年、2007年には火星全体を覆うような大規模な嵐に成長した。
全球的な砂嵐の発生は火星の気候などを研究するうえでは嬉しいものだが、火星表面にある探査車や火星を周回している探査機にはありがたくないものだ。太陽からの光が弱くなって太陽電池の発電量が下がったり、視界が悪くなったりしてしまうためである。今年5月に打ち上げ予定のNASAの探査車「インサイト」も、11月の火星到着の際に砂嵐が発生していれば着陸に影響が出るだろう。
米・ハンプトン大学のNicholas Heavensさんたちの研究チームがNASAの火星探査機「マーズ・リコナサンス・オービター」による観測データをもとに、2007年に発生した全球規模の砂嵐を分析したところ、火星の最上層大気からガスが逃げ出すプロセスに砂嵐が影響を及ぼしていることが示唆された。はるか昔から長い時間をかけて火星からガスが逃げ出したことにより、火星は湿った温暖な惑星から現在のような乾燥した凍てつく環境になったと考えられているが、その過程に全球規模の砂嵐が関係していることを示した成果である。
Heavensさんたちは、火星の高度50~100km付近の中層大気中の水蒸気量が地域的な砂嵐の最中にわずかに増加すること、2007年の全球的砂嵐の最中に水蒸気が急上昇したことを明らかにした。最新の分析によると、全球的砂嵐の間に中層大気の水蒸気は100倍以上も増加していたことが示されている。「大規模な砂嵐で、水蒸気は塵と一緒に上昇するのです」(Heavensさん)。
NASAの探査機「メイブン」が2014年に火星に到着するまでは、火星大気の最上層から宇宙空間へ水素が逃げていく過程はほぼ一定のペースで起こり、太陽風の影響によって多少ペースが変動すると考えられてきた。しかしメイブンとヨーロッパ宇宙機関の探査機「マーズエクスプレス」のデータからは、水素の減少パターンには太陽活動よりも火星の季節変化のほうが大きく関係すると考えられる。今回の結果は砂嵐による水蒸気の巻き上げが、その季節的なパターンの鍵になることを示すものだ。
今後、全球規模の砂嵐が発生し大きな影響を及ぼしている間にメイブンが観測を行えば、砂嵐と大気からのガスの散逸との関係についての理解が進むと期待される。
〈参照〉
- NASA JPL:Dust Storms Linked to Gas Escape from Mars Atmosphere
- Nature Astronomy:Hydrogen escape from Mars enhanced by deep convection in dust storms 論文
〈関連リンク〉
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