新天文学専用スーパーコンピューター「アテルイII」運用開始
【2018年6月6日 国立天文台天文シミュレーションプロジェクト】
国立天文台天文シミュレーションプロジェクト(Center for Computational Astrophysics; CfCA)では大規模数値計算専用計算機として、天文学専用スーパーコンピューター「アテルイII」の本格運用を6月1日から国立天文台水沢キャンパス(岩手県奥州市)で開始した。
アテルイIIは、2018年3月まで運用されてきた「アテルイ」にかわる新しいスーパーコンピューターだ。計算機の頭脳であるコアの数は約4万で(アテルイは約2万5000)、理論演算性能は2013年のアテルイ導入時の約6倍、2014年のアップグレード以降の3倍にあたる3.087ペタフロップス(1秒間に3000兆回の浮動小数点計算)に向上した。
この向上した性能によって、アテルイIIは、前システムではできなかった、より大規模・現実的なシミュレーションを行い、「理論天文学の望遠鏡」として新しい宇宙の姿を描き出すことが期待されている。たとえば、これまでの天の川銀河のシミュレーションは、実際よりも少ない星の数でしか行えなかったが、アテルイIIでは銀河を構成する数千億個の星すべての運動を計算することができる。
「前システムと比べて約半分の時間でモデルの計算ができるようになりました。これにより、色々な実験的なシミュレーションをすばやくできるようになりました。観測との比較を視野に入れた研究にとって重要なことです」(法政大学 松本倫明さん)。
天文学は、宇宙を望遠鏡などで直接見る「観測天文学」と、物理学と数学によって現象を記述し理解する「理論天文学」を両輪として長らく発展してきた。コンピューターが発達した現代では、理論だけでは解くことができない方程式を数値的に解き、シミュレーションによってコンピューターの中に宇宙や天体を実験的に作り出し観察する「シミュレーション天文学」が、宇宙を理解するために欠かすことのできない第三の手法となっている。
「現代天文学におけるシミュレーションの役割はますます大きくなってきています。観測される天体がなぜそのように見えるのか、観測できない宇宙や天体では何が起こっているのかなどを物理に基づいたシミュレーションによって描き出すことができます。新しい『理論天文学の望遠鏡』として、アテルイIIが超新星爆発の機構や、銀河の形成と進化、恒星と惑星系の起源などの問題を解き明かすことを期待しています」(国立天文台天文シミュレーションプロジェクト長 小久保英一郎さん)。
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