恒星のふらつきをとらえる「ドップラー偏移法」
ところで、これまでに発見された系外惑星のほとんどは、「ドップラー偏移」 を利用して間接的に発見されたものだ。惑星がまわっていると、恒星はふらつく。それは惑星と恒星はその重心を中心にお互いにまわるからだ。恒星の方が圧倒的に重いので、恒星は僅かしか動かないが、惑星と同じ周期で回転する。ハンマー投げの選手とおもりの旋回を思い出してもらえばいいだろう。
太陽は、木星の影響で、半径 0.005天文単位の円を約12年 (木星の公転周期) でまわっている。速さは 秒速13メートル 程度だ。このような恒星のふらつきによって、恒星からの光はドップラー偏移をひきおこす。動いているものから発せられる音、例えば救急車のサイレンは、近づくときには高くなり (波長が短くなる)、遠ざかるときには低くなる(波長が長くなる)。恒星から出る光にも同様の効果がある。
つまり、惑星がまわっていると、恒星からの光の波長は周期的に長くなったり短くなったりする。この周期変動を観測することによって惑星を間接的に発見することができる。周期の長さから惑星の軌道半径(中心の恒星からの距離) がわかり、その軌道半径と変動の振幅から惑星の質量の最小値がわかる(真の値は視線方向と惑星軌道面がなす角が決まらないとわからない)。
重い惑星、軌道半径の短い惑星ほど、恒星のふれ速度は大きくなる。つまり、「ホット・ジュピター」は見つけやすい。反面、軌道半径の大きな惑星 (例えば太陽系の土星や天王星、海王星)や、軽い惑星(例えば地球型惑星)は、存在していたとしても現状の観測精度では検出できない。
惑星の恒星面通過をとらえる「トランジット法」
ドップラー偏移法とは 別の系外惑星の発見方法で有力なものがトランジット法だ。惑星の軌道面が、われわれから見て ちょうど真横になっている場合には、惑星が ときどき恒星の前を横切って影になる。そのとき恒星がみかけ上、一時的に減光する。この恒星面通過(トランジット)による減光で惑星を検出する方法を「トランジット法」と呼んでいる。
惑星新発見の方法としての利点は、ドップラー偏移法に比べて、遥か遠方の恒星の惑星も発見できることだ。恒星の光の精密なドップラー偏移観測を行なうためには、明るい恒星、つまり近い恒星でなければならない。つまり、ドップラー偏移法で発見できる惑星は比較的近いものに限られる。一方、トランジット法は単に周期的な減光がわかればいいので、遠く暗い恒星の惑星も発見できる。ただ問題は、惑星軌道面が視線方向にほぼ一致している必要があるため、惑星があっても恒星面通過が起こる確率が小さいということだ。恒星の直径をD、惑星軌道半径をRとすると、軌道として恒星面通過が起こる確率はD/πRで、恒星面通過が実際に起こっている瞬間に当たる確率はさらにD/2πR程度。太陽のような恒星でR=0.05天文単位のホット・ジュピターが あった場合では、D/πRは1/15程度なので、観測したときに恒星面通過に うまく当たる確率は 数百分の1になる。軌道半径Rが大きな惑星では確率はもっと下がる(例えば、R=5天文単位の 木星だと 数百万分の1)。このため、惑星新発見のためには、銀河中心や 星団などの方向を狙って、十万から百万個 というような 非常に多くの恒星を 継続的に 観測し続ける ということがされている。これまでに恒星面通過 かも知れないという減光は 数十以上の恒星で観測され、そのうちのOGLE-TR-56の減光は多分、惑星によるものだとされている(他は確認中)。数年内にはフランスのCorotやアメリカのKeplerという惑星トランジット観測専用宇宙望遠鏡がち上げられる予定だ。
一方、トランジット法は 惑星新発見の 方法としてだけでなく、すでに ドップラー偏移法で 見つかっている 系外惑星に対しても 極めて重要だ。HD209458という7.6等級の恒星には、ドップラー偏移法によって、軌道半径 0.045天文単位の ホット・ジュピターが 発見されたのだが、トランジット法によっても 惑星が確認された。ドップラー偏移法と トランジット法という、まったく異なる方法で 確認されたことにより、惑星の存在は 100%揺るぎないものになったという 意義も大きいが、それだけではない。
恒星面通過が 観測されたことによって、惑星軌道面の 向きが決定され、惑星質量が 完全に求まった。さらに 惑星の密度もわかる。減光率は 恒星と惑星の 断面積の 比に他ならない。恒星の半径は その恒星スペクトルから 推定できるので、結果として 惑星の断面積が 決まる。質量と断面積から 惑星密度がわかる。これは 惑星の組成に対して、重要な 情報を与える。さらに惑星が 恒星面通過中、恒星の光の一部は 惑星の大気を 通過してくるので、恒星面通過中と それ以外のときの スペクトルを比べると、惑星大気の情報を 取り出せる。このことによって、惑星大気の ナトリウムの量が 推定された。また、惑星から 吹き出しているガスが 検出できたとする報告もある。
このように 既知の系外惑星についても トランジット法が 成功すると、ドップラー偏移法だけの 場合に比べて、惑星に関する 桁違いに多くの 情報を得られる。ところが、トランジット法による 追試が成功したのは、まだ HD209458 のたった一例に 過ぎない。もっと多くの系外惑星で、その“異形”の顔に迫るには、さらに多くの トランジット観測成功例が ほしいところだ。
※ フィンランドのアマチュア天文グループ Jyvaskylan Sirius による2000年9月16日のHD209458の光度曲線(青線)(ページ下方のグラフ参照)。ミード40センチ望遠鏡とST-7Eを用い、惑星が恒星面を通過したときの0.02等の減光をとらえている。赤線は比較星の光度変化。