2006年 すばる食
今年は、おなじみのすばる(プレアデス星団、M45)が月に隠される「すばる食」が6回も起きます。見られるのは2月6日、4月29日、8月16日、9月13日、11月7日、12月31日で、時間帯、月の形、隠れ方も様々です。
はじめに
月が背後の星を隠す現象を「恒星食」(または単に「星食」)と言います。今年は、有名な散開星団・すばるの星が月に隠される「すばる食」が6回も起きます。しかも今年だけではなく、2010年までの間、毎年数回ずつ見られます。1988年から1992年にかけても、すばる食が何度も起きましたが、それから今までの間、一ヶ月に一回すばるが月の近くを通ることはあっても、恒星を隠すことはありませんでした。なぜ、このようなことが起きるのでしょう。
天球上の月の通り道(白道)は太陽の通り道(黄道)に対して約5度傾いているので、黄道に近い星は月に隠される可能性があります。しかし、月はいつも同じところを通るわけではありません。白道は黄道に対して少しずつずれていき、約18.6年で元の位置に戻ります。すばる食が起きやすい時期がおよそ18年ごとにやってくるのはこのためです。また、月やすばるの大きさの関係で、起きやすい時期が数年間続きます。
おおみそか、12月31日のすばる食
全部で6回もすばる食が見られた2006年、最後を飾る天文現象もすばる食です。全国で見られ、宵のうちでしかも高度が高いので、今年一番多くの人に見られるすばる食になるかもしれません。月齢は11で、満月の4日前です。星に比べて月がまぶしいので、双眼鏡で観測するのがおすすめです。
隠される星のうち、とくに明るいものを右の図に示しました。東京の場合、最初に隠されるのは「ケレーノ」で、18時18分ごろのことです。10分後には今回隠される星のうちもっとも明るい「エレクトラ」が隠れます。その後2時間以上に渡って星が隠されては現れ、20時25分ごろに「アステローペII」が出現してすばる食は終了します。今回は地域によって隠される星に大きな違いはありませんが、時刻や順番は多少前後しますので潜入や出現の瞬間をとらえたい場合は注意してください。
今回隠される星の中でとくに明るいものについて、食の現象時刻と地平高度を表にしました。
観測地 | 潜入 | 出現 | ||
---|---|---|---|---|
時刻 | 高度 | 時刻 | 高度 | |
札幌 | 18:30 | 57゚ | 19:30 | 66゚ |
東京 | 18:28 | 58゚ | 19:02 | 65゚ |
大阪 | 18:17 | 52゚ | 19:00 | 61゚ |
福岡 | 18:06 | 46゚ | 18:56 | 56゚ |
那覇 | 18:02 | 42゚ | 18:29 | 48゚ |
観測地 | 潜入 | 出現 | ||
---|---|---|---|---|
時刻 | 高度 | 時刻 | 高度 | |
札幌 | 18:57 | 62゚ | 20:03 | 70゚ |
東京 | 18:39 | 60゚ | 19:56 | 74゚ |
大阪 | 18:33 | 56゚ | 19:46 | 70゚ |
福岡 | 18:27 | 50゚ | 19:36 | 65゚ |
那覇 | 18:11 | 44゚ | 19:22 | 60゚ |
観測地 | 潜入 | 出現 | ||
---|---|---|---|---|
時刻 | 高度 | 時刻 | 高度 | |
札幌 | 19:04 | 63゚ | 20:21 | 71゚ |
東京 | 18:53 | 63゚ | 20:06 | 76゚ |
大阪 | 18:45 | 58゚ | 19:58 | 72゚ |
福岡 | 18:36 | 52゚ | 19:49 | 67゚ |
那覇 | 18:24 | 47゚ | 19:29 | 61゚ |
他の回の見え方
すばる食は今年6回見ることができますが、見え方は毎回異なります。また、地方によっても月とすばるの位置関係が変わって見えます。
2月6日(終了)
最初のすばる食は2月6日に見られますが、残念ながら日中(夕方)の現象となります。それでも、日没後にすばると月が非常に接近している様子は、双眼鏡で観察する格好のターゲットと言えるでしょう。
4月29日(終了)
4月29日夜7時半ごろ、西の空の地平線付近で細い月がすばるを隠します。高度はわずか10度弱なので、西の空の開けたところで観測しましょう。全国各地で見られます。地球照も美しいので、カメラでも狙ってみたいところです。
8月16日(終了)
8月16日、大阪よりも北では下弦の月がすばるを隠したまま東から昇ってきます。西日本方面では、月の出のころには食が終わっています。とはいえ、ちょうど下弦の月なので、すばると並んでいる姿を楽しむ価値はあるでしょう。
9月13日(終了)
9月13日、全国的にすばる食が起きますが、残念ながら食の開始とほぼ同じころに日の出となるので、すばるの星が隠される様子を見るのは難しいでしょう。ただ、月の高度は高いので、12日の深夜から13日の未明にかけて月がすばるに接近していく様子がわかりやすいでしょう。
11月7日(終了)
11月7日に日付が変わったころから、満月を過ぎたばかりの月がすばるの北側の星を次々と隠します。高度が高く、今年もっとも条件の良いすばる食です。唯一の難点は月がまぶしすぎて肉眼で星を見るのが難しいことなので、双眼鏡を使うなど工夫してみてください。
ステラナビゲータですばる食を再現
星食の醍醐味は、なんといっても星が隠れる瞬間(潜入)と現れる瞬間(出現)です。しかし一瞬の出来事なので、あらかじめ時刻と場所を把握していなければ見るのは難しいでしょう。もちろん、すばる食の見え方は毎回異なりますし、見る場所によっても大きく異なります。
天文シミュレーションソフト「ステラナビゲータ Ver.8」を使えば、自分の住んでいるところでは何時何分ごろ、どのように見えるのかを再現することができます。
設定方法などの参考ページ : ステラで再現「アンタレス食を再現しよう」(星ナビ2005年4月号掲載)
観測してみよう
眺めてみよう
すばるの星は、一番明るいものでも3等級なので、明るい月の近くでは見えづらくなってしまいます。そのため、食の様子を楽しむためには双眼鏡やフィールドスコープがあるとよいでしょう。双眼鏡やフィールドスコープは、アストロアーツのオンラインショップでも取り扱っています。
特に、複数の星が隠される食の場合は、長時間月を見続けることになります。時々休むなど、目を疲れさせないように工夫しましょう。
時刻を正確に測ろう
恒星食を観測する上で、正確な現在時刻を知ることは不可欠です。もっとも確実なのは、GPSを利用することでしょう。また、NTTの時報サービス「117番」も、精度はやや劣りますが有効な手段です。
食の様子をビデオで録画しよう
高倍率のズームレンズを搭載した家庭用ビデオカメラを使って、同じ画面の中で月とすばるの星との両方をはっきりと写すことができれば、潜入や出現の瞬間を録画することも可能です。ただし、月と星との明るさの差があまりにも大きいため、マニュアル露出またはマニュアルでの明るさ補正機能が必須となります。この場合にも、正確な時刻が測れるように準備しておきましょう。