彗星に関する基礎知識
はじめに
突然のように現れて夜空に長い尾をたなびかせる彗星は、古来から忌まわしきものと言われてきました。大彗星の出現は天変地異の前触れなどと言われていたようです。彗星の正体が分からなかった時代の人々にとっては、ボーッとした頭部とそれに続く長い尾、そして夜空を日々移動して行く彗星の姿は、人心を惑わす不思議なものと映ったのでしょう。
彗星の姿
彗星は通常、中心部に輝く核と、それを取り巻くボーッとしたコマ、尾から構成されています。中にはコマがほとんどなく恒星状に見えるものや、尾がなく球状星団のように見えるもの、核がはっきりせず淡い雲のように見えるものなどもあります。
核は、彗星の中心部に輝く固体部分で、直径数キロメートルほどのひじょうに小さな部分です。ハレー彗星の前回の回帰(1986年)の際、日本の「さきがけ」「すいせい」など各国の探査機がハレー彗星の核に接近し、じゃがいも型をした核の姿がとらえられました。さらに、その表面の所々からガスやチリがジェット状に吹き出しているのもあわせて観測されました。
コマは、核から吹き出したガスやチリが核を取り巻いているもので、大きさは10万〜100万キロメートルもある巨大な塊です。コマは太陽からのエネルギーの影響で放出されるものなので、彗星が遠くにあるときにはほとんど見られません。通常の場合、彗星が太陽から2〜3天文単位くらいまで近付くと発生するようです。
彗星の尾
彗星の最大の特徴といえば、なんと言っても尾でしょう。明るく長い尾を伸ばした大彗星の姿ほど素晴らしいものはありません。まさに「ほうき星」そのものの姿を見せてくれます。
尾は、核から放出されたガスやチリが長く伸びて作られます。ガスは太陽から吹きつける太陽風によって太陽の正反対側にほぼ直線状に伸びていき、イオンテイル(タイプIの尾)と呼ばれる尾になります。一方、チリは核からの放出速度と彗星本体の速度との関係から、新たな太陽周回軌道を運動するようになりますが、いくつかの要素が絡み合って曲線状に伸びていきます。これをダストテイル(タイプIIの尾)といいます。
また、大きく曲ったダストの尾が、見かけ上太陽の方向に伸びているように見えることもあります。これを特にアンチテイルと呼んでいます。
彗星の名前
「百武彗星」「ヘール・ボップ彗星」といった彗星の名前は、通常、その彗星を発見した人の名前が発見順に3人までつけられることになっています。日本は世界でもトップクラスの新彗星発見国で、日本人の名前の付けられた彗星もたくさんあります。
最近では、リニア彗星、ニート彗星という名前のつけられた彗星がたくさんあります。リニア彗星はアメリカ・リンカーン研究所の小惑星サーベイプロジェクト(LINEARプロジェクト)で全天を自動掃天して発見されるもので、カバーする範囲の広さと高い感度により多くの彗星を発見しています。また、ニート彗星はアメリカ・ジェット推進研究所の小惑星捜索プログラム(NEATプログラム)によるもので、やはり自動掃天で撮影した画像から彗星を発見しています。
このほか、周期彗星と確認された彗星につけられる番号(池谷・張彗星=153Pなど)や、発見年とおおよその発見時期を表す符号(例えば、百武彗星=C/1996B2は、1996年1月下旬に発見された2つめの彗星)などもあります。
彗星の研究
彗星のうち、周期が数百年以上の長周期彗星は、太陽から数万天文単位もの遠方に球核状に広がるオールトの雲と呼ばれる領域からやってきたと考えられています。また、周期がせいぜい数十年の短周期彗星のうち黄道面(地球の軌道面)に近いところを順行する彗星は、エッジワース・カイパーベルトと呼ばれる海王星軌道の外側のベルト状の領域からやってきたものとされています。短周期彗星の中でも軌道が大きく傾いた彗星(たとえばハレー彗星)は、オールトの雲起源でありながら惑星の引力で軌道が変えられて短周期彗星になったものと言われています。
彗星の核は氷と岩石が混じった成分でできており、「よごれた雪だるま」などと形容されることがあります。その成分中には太陽系が形成されたときの情報が残されていると考えられており、地上からの分光観測や探査機の観測によって詳しい調査が行われています。彗星の核に弾丸を撃ち込み、飛び散った破片を観測するという「ディープ・インパクト」計画も進められています。
また、彗星は、毎年決まった時期に流星を降らせる「流星群」とも関連があると言われています。彗星のまき散らしたチリと地球の軌道が交差するところでチリが流星となって見えるというわけです。こういったチリの分布や大きさを調べるという研究も行われています。