皆既日食の楽しみと観測方法●皆既日食で何がみえるの?皆既日食を良く知らない人の中には、部分日食と同じように太陽が欠けるだけと思っている人も少なくないようですが、皆既日食は部分日食とは比べ物にならないほど美しく、ドラマティックな天文現象です。 それは、部分日食では絶対にみることのできない、コロナ、プロミネンス、ダイヤモンドリング、本影錐などがみえることにあります。
■コロナ
コロナは、太陽を取り巻く希薄なガスで、明るくみえる内部コロナでさえ満月と同じくらいの明るさですが、ふだんは太陽光球の明るさにかき消されてみることができません。
皆既日食のときには、このコロナを肉眼でみることができるのです。
これを良く観察すると、ループ状や紡錘状のもようがみえたり、細長くのびた複雑な流線構造があるのがわかります。
コロナの形は皆既日食のたびに違います。
それは大陽活動の強さに左右されるためです。
■プロミネンス
プロミネンスは日本語では「紅炎」といい、皆既日食のときに太陽の縁にあれば、それが鮮やかなピンクがかった赤色にみえ、まるで太陽の縁で炎が燃えているような印象をうけます。
■ダイヤモンドリング
皆既日食の終わりに、月の谷間から太陽光球の光がもれると、そこが明るく輝き、太陽を取り巻く内部コロナと合わせて、まるでダイヤモンドの指輪のような姿がみられます。
これをダイヤモンドリングといいます。
ダイヤモンドは、ただ一つだけとは限りません。
月の縁が複雑な地形であれば、2つ、3つのダイヤがはめ込まれた美しいリングがみられることもあります。
■本影錐 皆既日食は太陽が月に完全に隠されることで起こるものです。 これを地球の外側からみると、大きな月の影が地球上を移動し、各地を覆っていきます。 この月の影を本影錐といいますが、地上からもみることができます。 皆既日食の直前に大きな影が急速に接近してきます。 皆既中はこの影にすっぽりと覆われてしまいますので、空は暗くなり、惑星や明るい星が姿をあらわします。 地上付近はまるで夕焼けのように朱に染まり、実に幻想的な光景がひろがります。 皆既が終わると、ふたたび本影の大きな影が遠ざかっていくのがわかります。 ●肉眼または双眼鏡での観測皆既日食の前後の部分日食を観察・撮影するためには、日食めがねや減光フィルターが必要です。詳しくは、安全な太陽観察のための必須事項を参照ください。皆既食の始まる数秒前には太陽光線は月の谷間からもれるものだけとなり、うっすらと見え始めたコロナと相まってダイヤモンドの指輪のようにみえます(皆既食が終わるときほどはっきりとみえないのは、明るい光の影響で瞳が閉じているからです)。 太陽光線は次第に弱くなり、完全に隠されると皆既食の始まりです。 太陽の周辺部にプロミネンスがあれば、コロナとともに赤紫色に輝いているのがみえるでしょう。 太陽を取り巻くプロミネンスは、さながら太陽を食らう龍神のようです。 今年は太陽の活動がずいぶんと活発になっているので大きなプロミネンスが期待できます。 あたりの明るさに眼が慣れてくると、コロナの微細構造が見えてきます。コロナは太陽の直径の数倍のところまで広がっており、ループや紡錘状の模様や複雑に入り組んだ流線構造を見ることができます。 双眼鏡で観察するとその微細な構造がみえ素晴らしいながめです。 皆既食の終わりには、再びダイヤモンドリングを見ることができます。 このようすは写真では見た目のように写すのは難しく、肉眼でみるのが一番です。 ※太陽光球がみえている間は、絶対に双眼鏡で直視しないように注意が必要です。 ●写真撮影皆既日食は短時間の天文現象で、しかも一発勝負ですから、写真撮影には入念な計画と準備が必要です。 皆既日食時のコロナは、太陽直径の4〜5倍の広がりがありますから、35mmフィルムの場合には、光学系の焦点距離は500〜700mmが適当です。 内部コロナとプロミネンスを高解像度で撮影したければ、さらに拡大します。 フィルムは高感度の粒子の粗いものは避けて、低感度のできるだけ微粒子のものを使用したほうが良く、発色もきれいです。 コロナは、リムに近いところと外側では明るさが極端に違いますから、露出時間も1/2000秒〜数秒まで、大きく変えながら撮影しておきましょう。 また、拡大撮影だけでなく、広角レンズで太陽を地上の風景と一緒に写し込んでみても面白いでしょう。 これを写すにはコンパクトカメラでも十分なので1台余分に持って行くといいでしょう。 ●ビデオに撮るダイヤモンドリングやコロナなどは大変コントラストが強く、1枚の写真にその全貌を記録するのは大変困難です。 その点ビデオはコントラストが強くてもそこそこ写りやすく、見た目に近い記録を残すことができます。 また、ダイヤモンドリングが消えていくようすなど、動きを記録できる点もビデオの良いところです。 ビデオといっても特別なものは必要なくホームビデオでも十分に撮影できます。 最近はズーム機能で強拡大できるものもありますが、デジタルズームの場合、解像度が落ちてしまいますから、必要に応じて2倍から3倍のテレコンバータを用意しておくといいでしょう。 部分日食中のビデオを撮影するときには、D4の減光フィルターが必要ですが、ダイヤモンドリングの直前からフィルターなしで撮影します。 これを忘れると、外部コロナはまったく写りませんので注意が必要です。 露出はオートでもそこそこ写りますが、アイリス調整のできるビデオカメラならアイリスを調整して、コロナの全体や中心付近などを写し分けると面白いでしょう。 また、同時に周囲の歓声なども取り込んでおけば臨場感溢れた日食ビデオができます。 なにはともあれ、皆既日食を初めて見る人は、あれこれ望まないほうがいいでしょう。 皆既日食の美しさは写真やテレビで見るものとは比べ物にならないもので、実際に皆既日食が始まれば興奮のあまり、カメラの操作などに気がまわらなくなるからです。 自分の目で見て心に焼き付けることをお忘れないように。 |