太陽から遠く冷たい場所で誕生したホームズ彗星

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2007年10月下旬に、わずか2日の間で40万倍以上も明るくなったホームズ彗星について、増光時のデータの解析から、その生まれ故郷は太陽から遠く離れた冷たい場所らしいことが明らかになった。

【2018年11月2日 京都産業大学すばる望遠鏡

ホームズ彗星(17P/Holmes)は、1892年に発見された、太陽の周りを約7年で公転する彗星だ。2007年5月に近日点(太陽に最接近する点)を通過した後、同年10月下旬に太陽から約3.6億km(太陽から地球までの約2.4倍)の距離に位置していたところで、爆発的な増光(アウトバースト)を起こした。

10月23日には約17等の明るさだったホームズ彗星は、24日には9等級も増光して8等となり、翌25日に約2.9等と2等台に突入した。わずか2日ほどの間に14等級以上、明るさにして約40万倍以上も増光したことになる。

2007年10月26日のホームズ彗星
2007年10月26日のホームズ彗星(17P)。画像クリックで天体写真ギャラリーのページへ(撮影・提供:Sasaki Akiraさん)

京都産業大学(当時)の小林仁美さんは急増光直後にホームズ彗星の分光観測を実施し、爆発的な増光の原因が大量の塵の放出にあることを突き止めた。しかし、どのようにして爆発的増光が起こったのかは謎のままだった。

京都産業大学神山天文台の新中善晴さんたちの研究グループは、ホームズ彗星から放出された塵の成分に着目し、爆発的な増光が起こった当時に国立天文台のすばる望遠鏡が中間赤外線波長で観測したホームズ彗星の分光データを再解析した。そして、ホームズ彗星に揮発性の高い氷が多く含まれている可能性を突き止めた。

このような氷が爆発的に昇華することで爆発的な塵の放出が生じ、ホームズ彗星の大増光を引き起こした可能性がある。

すばる望遠鏡で撮影したホームズ彗星の中間赤外線画像
2007年10月25日(爆発約2日後)にすばる望遠鏡で撮影したホームズ彗星の中間赤外線画像(提供:国立天文台)

新中さんたちの解析では、ホームズ彗星は他の彗星に比べてアモルファス(非晶質)成分の塵が多く、結晶質成分が少ないことが示された。彗星に含まれるシリケイト(ケイ酸塩)と呼ばれる鉱物は、結晶質のものとアモルファスのものとが共存している。このうち結晶質の成分は、アモルファス成分のものが原始太陽の近くで加熱されて変化したものであり、太陽から離れた場所まで運ばれてから彗星に取り込まれたと考えられている。

太陽から遠く離れるほど、そこまで運ばれる塵が少なくなるため、結晶質成分が少ないほど、太陽から遠い所で誕生した彗星であると考えられる。つまり、ホームズ彗星に結晶質成分が少ないことは、この彗星が他の彗星に比べて太陽からより遠く冷たい場所で誕生した証拠と考えられる。そのような場所には、低い温度で昇華する一酸化炭素等の氷や、水のアモルファス氷といった揮発性の高い氷が豊富に存在すると考えられ、それがホームズ彗星に含まれていたということだ。

「彗星は、大きな尾をたなびかせた美しい姿や、崩壊や急増光といった思いもよらない姿を見せてくれるだけでなく、太陽系の過去の情報を秘めた化石という面でも非常に面白い研究対象です。大増光直後という非常に貴重な時期に取得されたデータから、ホームズ彗星や彗星に含まれる塵を形成した環境の理解が深まりました」(新中さん)。