重元素をほとんど含まない、135億歳の低質量星
【2018年11月12日 ジョンズ・ホプキンズ大学】
約138億年前に起こったビッグバンでは、誕生直後の宇宙が冷えるとともに、水素とヘリウム、それにごく少量のリチウムという3つの元素が最初に合成されたと考えられている。したがって、この直後に生まれた第一世代の星は、この3種類の元素だけでできているはずだ。この第一世代の星々の中心核で、水素やヘリウムの核融合反応によってより重い元素が作られた後、その星が超新星爆発を起こすことで、重い元素が宇宙にばら撒かれた。
第二世代以降の星は、ばら撒かれた元素を含むガス雲から生まれるため、星の中に重い元素が取り込まれる。このようにして星の生死が繰り返されることで、星に含まれる重い元素(天文学では総称して「金属」とも呼ぶ)の量が徐々に増えてきた。たとえば太陽はビッグバンから何世代も後に生まれた恒星であるため、木星14個分ほどの質量の重元素を含んでいる。
米・ジョンズ・ホプキンズ大学のKevin Schlaufmanさんたちの研究チームは、さいだん座の方向約1950光年の距離に位置する恒星「2MASS J18082002-5104378」のスペクトル分析から、この星に暗い伴星が存在することを発見した。この伴星「2MASS J18082002-5104378 B」は、ほぼ水素・ヘリウム・リチウムだけからなる「超低金属星(超金属欠乏星)」で、星に含まれる金属量は水星の質量と同じくらいであり、これまでに知られている星の中では最も少ない。
きわめて金属量が少ないことから、この星はビッグバンの直後に生まれた第一世代の天体か、それに近い可能性がある。年齢は約135億歳と推定されており、現在の宇宙に存在する恒星の中で最も年老いたものの一つとみられている。
これまでに超低金属星は30個ほど発見されているが、それらはどれも質量が太陽と同じくらいの星だった。しかし今回発見された伴星の質量は、太陽の14%ほどしかない。また、この星は太陽と同じように天の川銀河の円盤の中を公転している点も珍しい。ほとんどの超低金属量星は、銀河円盤を横切って銀河面から離れるような軌道を持っているのが普通だ。
1990年代後半までは、宇宙で最初期に生まれる星は質量の大きな星のみだと考えられてきた。こうした大質量星は核融合の燃料を急速に使い果たしてすぐに超新星爆発を迎えてしまうため、現在の宇宙で観測されることはないとされてきた。しかし、恒星進化の精密なシミュレーションが行えるようになると、ある種の条件のもとでは、初期宇宙でも質量の小さな星が作られ、ビッグバンから130億年以上経った現在の宇宙にも存在しうるという可能性が示唆されるようになった。
大質量星とは異なり、質量の小さな星の寿命はきわめて長い。たとえば、質量が太陽の数分の一しかない赤色矮星の寿命は数兆年と考えられている。今回Schlaufmanさんたちが「2MASS J18082002-5104378 B」を見つけたことで、質量が非常に小さく金属量も非常に少ない星が他にも数多く存在し、宇宙で最初に誕生した星の一部が現在まで生き残っている可能性がしめされた。今後、さらに年老いた星が観測されるかもしれない。
「この星は1000万個に1つという非常に珍しい星かもしれません。宇宙の第一世代の星について、非常に重要な情報をもたらしてくれることでしょう。私たちの推測が正しければ、完全にビッグバンで作られた元素だけからなる低質量星も存在しうるでしょう。天の川銀河の中でそのような天体はまだ発見されていませんが、存在する可能性はあります」(Schlaufmanさん)。
〈参照〉
- Johns Hopkins University:Johns Hopkins scientist finds elusive star with origins close to Big Bang
- The Astrophysical Journal:An Ultra Metal-poor Star Near the Hydrogen-burning Limit 論文
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