土星にタイタンしか巨大衛星が存在しない理由

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土星とタイタンのように、惑星の周りに大型衛星が1つしか存在しない衛星系を形成するメカニズムは従来不明とされていたが、シミュレーションによってこれを初めて再現した研究成果が発表された。

【2020年3月11日 国立天文台天文シミュレーションプロジェクト

土星には現在82個の衛星が見つかっているが、その中でタイタンだけが群を抜いて大きく、その質量は2番目に大きい衛星レアの約50倍もある。これは同程度に巨大なガリレオ衛星が4つ存在する木星と対照的だ。こうした巨大衛星が誕生するメカニズムを解明しようとするこれまでの研究では、木星のように複数の巨大衛星が存在する系は再現可能だが、土星のタイタンのような単独の巨大衛星は説明が困難とされていた。

生まれたばかりの惑星の周囲には、ガスや塵などからなる円盤が形成され、その中で衛星が成長すると考えられる。ただし、衛星が大きくなると、周囲に円盤のガスが残っていれば惑星の周りを回る運動にブレーキがかかってしまい、徐々に内側へ引きずられて最後は惑星に飲み込まれてしまうはずだ。こうした環境をシミュレーションした従来の研究では、円盤が消えるまでにすべての巨大衛星が惑星に飲み込まれるか、複数の衛星が生き残るかのどちらかであり、1個だけ残るシナリオは描くことができなかった。

衛星形成のイラスト
惑星と衛星が誕生する様子を再現したイラスト。土星のようなガス惑星が生まれたときに周りを取り巻いていたガスや塵の円盤の中で、固体成分が集積して衛星が形成された(提供:名古屋大学)

衛星の回転運動を減速させる力は円盤のガスの温度によって変化するが、従来の研究ではこの円盤の温度や密度の見積もりを簡略化していた。そこで、名古屋大学の藤井悠里さんと国立天文台の荻原正博さんの研究チームは国立天文台天文シミュレーションプロジェクトが運用する共同利用計算機の「計算サーバ」を用い、円盤の状態を詳細に計算して、その中における衛星の運動を詳しく解析した。

その結果、円盤のガスは一律に衛星を内側に引っ張るわけではないこと、惑星からある程度離れた領域では外向きの力が働く「安全地帯」が存在しうることが判明した。この安全地帯周辺では塵の影響で内外の温度差が激しく、衛星軌道の内側と外側でガスの与える力が異なるために衛星が外側に押される。この領域に衛星がとらえられれば、円盤が散逸するまでに巨大衛星が1つだけ残ることが可能になる、というわけだ。

衛星と惑星の距離の時間変化シミュレーション例
衛星と惑星の距離が時間変化する様子をシミュレーションした結果の例。シミュレーション開始時に7つあったタイタンと同じ質量の衛星が円盤状のガスの中を移動し、時間とともに衛星の軌道が変化していく。ほとんどの衛星が惑星に飲み込まれるが、最初に一番外側に置いた衛星だけは、ガスが散逸しきるまで惑星に取り込まれずに生き残る(提供:Fujii & Ogihara, A&A, 2020/リリース元の図を一部改変)

円盤で生まれた衛星(黒丸)が生き残る過程のシミュレーション結果。青い領域では衛星は惑星(左)に向かって引きずられ、赤い領域では外向きに動く。時間とともに多くの衛星が次々と内側に移動し惑星に落ち込むが、一番外側に位置していた天体は途中から赤で示された「安全地帯」の範囲に位置し、ガスが散逸し終わるまで残った(提供:Fujii & Ogihara, A&A, 2020)

このようなシナリオが土星とタイタンで本当に起こったかどうかを、直接確認することは現時点では難しい。「今後は系外惑星の衛星も次第に観測されてくるはずです。土星のように大きな衛星が1つしかない衛星系がたくさん見つかれば、そのような系の形成についての議論が大いに進展するでしょう。そのときに、このシナリオの正しさも議論されることと思います」(荻原さん)。

巨大衛星が1つだけ形成されるメカニズム
巨大衛星が1つだけ形成されるメカニズムの模式図。(1)惑星の周囲を回るガスや塵からなる円盤が形成される。円盤の中で塵などの固体成分が集積・成長する。(2)円盤の中で固体成分が衛星の大きさまで成長する。(3)円盤内の衛星の軌道がガスに影響を受けることで次第に変化し、多くが回転しながら惑星に近づき、やがて惑星に落ち込む。軌道が安全地帯に位置するものは、惑星からの距離を保ち続ける。(4)円盤のガスが散逸し、安全地帯で生き延びた衛星は安定した軌道を持ち生き残る(提供:国立天文台)

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