火星の風が引き起こす微弱な振動
【2020年6月22日 九州大学】
2018年11月に火星に着陸したNASAの「インサイト」は、火星の内部を探査する初の探査機だ。「インサイト」は着陸地点のそばに高精度の地震観測装置「SEIS」を設置し、探査機本体にも温度計や風向・風速計などを備えている。これまでの探査で、火星内部で発生した地震(火震)が数百回検出されているほか、風による振動などもとらえられている(参照:「インサイトが「火震」らしい信号を初検出」/「地震や磁場など、火星探査機インサイトの初期成果を発表」)。
九州大学の末本雄大さん、辻健さんたちの研究チームは、「SEIS」に記録された様々な振動のうち、いわゆる火震とは別の、日常的に発生している微弱な振動に着目して、揺れの大きさの時間変動や発生源の方角などを解析した。
その結果、こうした「微動」に含まれる揺れのうち、火星の深い部分を伝わって届いた波(実体波)については、探査機から遠い場所で起こる風の影響を受けていることがわかった。一方、微動のうち火星の表面を伝わって届いた波(表面波)の方は、探査機に近い場所で起こる風によって引き起こされていた。また、微動の中でも揺れの周期が1秒未満の高周波については、風によって探査機本体に生じた振動が主な発生源であることが明らかになった。
さらに研究チームでは、この探査機本体で生じる高周波の微動を「震源」として利用することで、火星内部の地下構造を調べ、着陸地点の地下にある地層を可視化することにも成功したという。
かつてアポロ計画では、月の内部構造を調べるために、地震計で月の地震(月震)をとらえるだけでなく、ロケットの一部を月面に衝突させたり、火薬を爆発させたりして人工的に発生させた地震動を検出する実験を行った。しかし、今回の成果を応用すれば、火星の地下構造を調べる際に大きな火震が発生するのを待ち受けたり人工震動を起こしたりする必要はなく、日常的に発生している微弱な振動を利用することで、火星の内部についての情報を得られることになる。
辻さんたちは「夜空に小さな点にしか見えない火星の表面で地震計がデータを記録し、そのデータが地球に送られる、このような技術の発展により、宇宙空間が近くなりました。それに伴い、宇宙空間での資源確保といった新たな研究課題も生まれました。私たちは宇宙での資源開発に必要な技術要素の確立・惑星の理解に向けたサイエンスを今後も進めてまいります」とコメントしている。
〈参照〉
- 九州大学:火星の微動発生メカニズムと、微動を用いた探査による地下構造の解明
- Geophysical Research Letters:Temporal variation and frequency dependence of seismic ambient noise on Mars from polarization analysis 論文
〈関連リンク〉
- InSight Mars Lander
- アストロアーツ:
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- 天体写真ギャラリー:2020年 火星
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