天の川銀河に潜む「ペバトロン」の証拠、観測史上最高エネルギーの光子
【2021年4月7日 東京大学宇宙線研究所】
宇宙線は、宇宙のあらゆる方向からほぼ等方的にやってくる高エネルギーの陽子やヘリウムなどの原子核である。発見されたのは1912年だが、その起源、加速機構や伝搬方法などには多くの謎が残されている。
宇宙線のエネルギーは、高いものでは1PeV(1ペタ電子ボルト=1015電子ボルト)の領域にまで達する。これは人類が建造した最高性能の粒子加速器で実現するエネルギーよりも100倍以上高い。宇宙のどこかにあるはずの天然の加速器は「ペバトロン」と呼ばれ、捜索が続けられていたが、宇宙線は電荷を帯びた粒子なので宇宙空間の磁場などで曲げられてしまうため、どこから来たのかを突き止めるのは容易ではない。
日中の研究者からなる「チベットASγ実験グループ」は、このペバトロンが天の川銀河に存在する決定的な証拠を得た。手がかりとなったのは、観測史上最高のエネルギーを持つ「光」である。
宇宙線が他の物質に衝突すると、その10%程度のエネルギーを持つガンマ線が放出されると考えられる。つまり、1PeV以上に加速された宇宙線が銀河中の分子雲に突入すれば、そこから100TeV(テラ電子ボルト)以上のガンマ線が届くはずだ。ガンマ線も光(電磁波)の一種だが、可視光線のエネルギーは光子1つあたり数電子ボルトしかないので、100TeVのガンマ線はその100兆倍も強い光ということになる。
実験グループは中国チベット自治区の標高4,300mの高原に597台の粒子検出器「チベット空気シャワーアレイ」を設置し、高エネルギーのガンマ線や宇宙線が引き起こす空気シャワーを観測している。高エネルギーのガンマ線や宇宙線が大気上層の窒素原子核などと衝突して多数の粒子を生み、その衝突が繰り返されて粒子がシャワー状に降り注ぐ現象が「空気シャワー」だ。今回の研究では宇宙線そのものではなくガンマ線をとらえるのが狙いだったが、両者の空気シャワーに含まれる粒子の違いによって、ガンマ線だけをより分けることに成功した。
この観測から、実験グループは100TeV以上のガンマ線源が天の川に沿って分布していることを突き止めた。一番エネルギーの高いガンマ線は、観測史上最高となる1PeVに達している。注目すべきは、これらのガンマ線が既知のガンマ線放射天体とは異なる方向にある点だ。このことから、研究チームはペバトロンが天の川銀河の中に存在する、または過去に存在したと結論づけた。高エネルギーに加速された宇宙線は、数百万年以上にわたって天の川銀河の磁場に閉じ込められて地球に届くまで漂うという理論モデルが60年前から考えられてきたが、今回の結果はこれを実証するものとなる。
現在、南米ボリビアで、チベットASγ実験に類似した観測装置「ALPACA(アルパカ)実験」の建設が進められている。同装置は、さらに強力な宇宙線放射天体が存在するかもしれない天の川銀河中心付近の観測を目指している。今後、現存するペバトロンが探し出されれば、そこで起こる天体物理現象の解明が進むかもしれない。
〈参照〉
- 東京大学宇宙線研究所:60年来の謎解明へ、宇宙線の起源「ペバトロン」の決定的証拠つかむ!~天の川から史上最高エネルギーのガンマ線放射を観測~
- Physical Review Letters:First detection of sub-PeV diffuse gamma rays from the Galactic disk: Evidence for ubiquitous galactic cosmic rays beyond PeV energies 論文
〈関連リンク〉
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