新たな宇宙線源、りゅうこつ座エータ星

このエントリーをはてなブックマークに追加
大質量星同士の連星である「りゅうこつ座エータ星」からエネルギーの高いX線が放射されていることが明らかになった。こうした連星系でも陽子や電子が加速され、宇宙線の源となっていることを示す結果だ。

【2018年7月10日 広島大学

「りゅうこつ座η(エータ、イータ)星」は、りゅうこつ座の方向約7500光年の距離に存在する連星で、太陽質量の90倍と30倍という2つの大質量星が互いの周りを公転している。恒星同士の連星としては天の川銀河の中で最も重いものの一つだ。1840年代に大爆発を起こし、全天で2番目の明るさにまで増光したことがある。連星の周囲には、このときの爆発で放出されたと思われる物質が鉄あれいのような形に広がっている。

りゅうこつ座エータ星
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、りゅうこつ座η星(提供:ESA/NASA)

NASAゴダード宇宙飛行センターの濱口健二さんと広島大学大学院の高橋弘充さんをはじめとする国際共同研究グループは、りゅうこつ座η星をNASAのX線天文衛星「NuSTAR」で観測した。その結果、X線の中でも特にエネルギーの高い「硬X線」がこの天体から放射されていることがわかった。

濱口さんたちのグループでは、8年前にNASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」の観測データを解析し、強力なガンマ線がりゅうこつ座η星付近から放射されていることを明らかにしていた。ガンマ線が放射されるためには光速近くまで加速された電子や陽子が必要となるが、こうした超高エネルギー粒子はブラックホールや中性子星などで作られるのが普通で、りゅうこつ座η星のような普通の恒星に、これほど高いエネルギーまで粒子を加速できる激しい現象があるとは考えられていなかった。

また、フェルミの空間分解能ではガンマ線が飛んで来た方向を数分角の精度でしか決められないため、観測されたガンマ線が実際にりゅうこつ座η星から出たものか、それともη星の近くにガンマ線源となる未知の天体が隠れているのかがはっきりしていなかった。

一方、NuSTARは1万電子ボルト以上のエネルギーを持つ硬X線を集光できる初の天文衛星で、現在稼働している観測衛星では唯一、硬X線で高解像度の撮像を行える。このおかげで今回、硬X線源の位置を5秒角以内の精度で突き止め、確かにりゅうこつ座η星自身から硬X線が出ていることが明らかとなった。今回得られた硬X線のスペクトルはフェルミで得られたガンマ線のスペクトルとスムーズにつながっていることから、フェルミが観測したガンマ線も、りゅうこつ座η星自身が起源だと考えられる。

NuSTAR
観測を行う「NuSTAR」のイラスト(提供:NASA/JPL-Caltech)

さらに、NuSTARでは硬X線の明るさの変化を高い精度で測定することもできる。研究グループでは、りゅうこつ座η星からの硬X線を2014年から4年間にわたって継続的に測光し、連星の2つの星が5.5年周期で最も近づくときに硬X線の明るさが数か月間にわたって急激に弱まることを発見した。これは、硬X線の源である超高エネルギー粒子が2つの星の相互作用で生じている証拠だ。

質量の大きな星では、陽子や電子といった荷電粒子を高速で吹き出す「恒星風」という現象が起こっている。太陽で見られる「太陽風」も恒星風の一種だ。こうした大質量星が連星になっていると、2つの星から吹き出す恒星風が中間で激しく衝突し、衝撃波が常にできている状態になる。衝撃波にはフェルミ加速と呼ばれる仕組みで粒子を加速する働きがあるため、連星から吹き出した恒星風の粒子がこの衝撃波によって加速されるかもしれないと考えられてきた。今回の発見で、このメカニズムがりゅうこつ座η星で実際に働いており、加速された粒子が宇宙線となって宇宙空間に撒き散らされていることが明らかになった。

今回の研究成果を解説する動画(提供:NASA's Goddard Space Flight Center)

今後、りゅうこつ座η星やこれに似た連星をNuSTARで観測することで、連星系が宇宙線をどれだけ作り出しているのか、恒星風同士の相互作用でどのように高エネルギー粒子が加速されるのか、といった謎を解く手がかりが得られると期待される。

関連記事