スパコンで太陽圏外縁環境を再現し、初期の宇宙線生成機構を解明

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スーパーコンピューター「富岳」を使った宇宙プラズマ衝撃波の大規模かつ高精度な計算により、宇宙線異常成分の種になる陽子の初期加速過程が初めて解き明かされた。

【2024年8月5日 九州大学

宇宙空間を飛び交う放射線である宇宙線は、星形成や銀河の進化など天文学上の様々な分野において幅広い役割を果たしていると考えられている。また、有人宇宙活動や人工衛星にも影響を及ぼすため、宇宙線についての理解を深めることは重要だ。しかし、地上の加速器では実現できないほどの高いエネルギーを持つ宇宙線の生成・加速メカニズムについては、わかっていないことが多い。

生成メカニズムのモデルの中で有力視されているのが、宇宙プラズマ衝撃波による加速モデルだ。太陽圏(ヘリオスフィア)の外縁で生成され地球近傍で観測される、「宇宙線異常成分」と呼ばれる宇宙線は、太陽圏の終端衝撃波(Termination Shock、末端衝撃波面)で加速されたと長年考えられていた。しかし、NASAの惑星探査機「ボイジャー」が初めて太陽圏終端衝撃波を直接探査した際(1号機が2004年、2号機が2007年)]に、宇宙線の生成率が探査当時の理論的予測と明らかに異なることが示され、宇宙線生成機構の謎が深まっていた。

太陽圏や太陽圏終端衝撃波のイラスト
太陽圏や太陽圏終端衝撃波の範囲などを表すイラスト。太陽から100天文単位(約150億km)前後に、太陽圏終端衝撃波(Termination Shock)、太陽風が星間物質や銀河の磁場と衝突して完全に混ざり合う境界面で「太陽圏の果て」に当たるヘリオポーズ(Heliopause、太陽圏界面)、バウショック(Bow Shock、弧状衝撃波面)が存在し、この付近で宇宙線異常成分が生成されると考えられている。画像クリックで拡大表示(提供:NASA

そもそも衝撃波で宇宙線が加速されるには、宇宙線の種になる粒子(種粒子)が衝撃波の周りに多く存在している必要がある。しかし、そのための条件や、種粒子がどのように作られるのかについてはわかっていなかった。

そこで、九州大学の松清修一さんと千葉大学の松本洋介さんの研究チームは、太陽圏外縁領域の衝撃波による粒子加速において、その引き金となる初期の加速機構がどのように発現するのかという点に着目し、種粒子の生成機構解明に取り組んだ。

宇宙線の主成分は陽子で、太陽圏終端衝撃波の近傍には太陽圏外縁に特有の陽子成分「ピックアップイオン」が多く含まれることがわかっている。松清さんと松本さんはスーパーコンピューター「富岳」を用いて、数百億個もの電子と陽子の運動方程式と電磁場の基礎方程式を連立して解くプラズマの数値計算法(第一原理計算)により、ピックアップイオンを含む形で終端衝撃波の構造を再現し、ピックアップイオンの挙動を詳細に解析した。

その結果、衝撃波面に対して磁力線が斜めを向く際に、衝撃波上流で励起される大振幅電磁波が一部のピックアップイオンを効率的に加速すること、加速の初期段階でピックアップイオンが「サーフィン加速」と呼ばれる特徴的な挙動を示すことなどが明らかになった。宇宙線異常成分の種になる陽子の初期加速過程が解明されたのは世界初である。

太陽圏の模式図と計算結果
太陽圏の模式図と計算結果。(左上)太陽圏の模式図。この図の赤枠の領域(終端衝撃波とその近傍)を第一原理計算で再現。(左下)計算で再現した衝撃波近傍の様子。上は陽子の密度、下は磁場構造を表す。(右上)内部ヘリオシースの陽子のエネルギー分布。図中の角度は衝撃波面に対する磁力線の向きを表す。(右下)代表的な被加速粒子の軌道とエネルギーの変化。左右の線の同じ色が同じ時刻に相当する(提供:九州大学リリース)

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