ISSの装置で宇宙線炭素・酸素のエネルギースペクトルの観測に成功
【2021年1月21日 早稲田大学】
宇宙空間を高速で飛ぶ陽子や原子核などの粒子、宇宙線は、約100年前に発見されて以来、素粒子や宇宙の謎を解明する重要な情報をもたらしてきた。しかし、これらの粒子がどこでどのように加速されるのかについては未解明な部分が多い。私たちの天の川銀河で発生した宇宙線(銀河宇宙線)については、超新星爆発に伴う衝撃波で加速されてから星間磁場により拡散的に伝播するというメカニズムが標準モデルとされてきたが、観測が進むにつれて、標準モデルだけでは説明できない結果も報告されている。
標準モデルによれば、高いエネルギーの宇宙線ほど少なく、エネルギーに対して一定の割合で減っていくことが予測される。しかし、近年の気球や人工衛星、国際宇宙ステーション(ISS)からの直接観測によると、高エネルギーの宇宙線が予測されるほど減らない「スペクトルの硬化」という現象が起こっている。
スペクトルの硬化は、様々なエネルギーの宇宙線を同時に計測することで理解できる現象だ。これまで宇宙線の直接観測は、異なるエネルギー帯をカバーする2種類の検出器を使うことが多かった。これに対して、2015年8月にISSの「きぼう」日本実験棟に設置された宇宙線電子望遠鏡「CALET」は広いエネルギー測定範囲を備えている。早稲田大学などの研究チームは2019年に発表した研究の中で、宇宙線の主成分である陽子のスペクトル硬化をCALETで検出することに成功していた(参照:「CALET、10テラ電子ボルトまでの宇宙線陽子スペクトルを単独高精度測定」)。
伊・フィレンツェ大学のOscar Adrianiさん、早稲田大学の赤池陽水さんたちが今回新たに発表した論文では、宇宙線の中でも比較的質量が大きな粒子である炭素と酸素の原子核について、スペクトル硬化を高精度で検出したことを報告している。
CALETが検出した宇宙線炭素・酸素のスペクトル硬化は、宇宙線陽子のスペクトル硬化に比べて少ない変化量だった。その背景にある加速の仕組みを探る上で、さらに重い原子核のエネルギーを測定することが重要である。研究チームでは既に鉄などの重原子核のエネルギースペクトルを観測しており、今後早期に発表する予定だという。
〈参照〉
- 早稲田大学:宇宙線炭素・酸素のテラ電子ボルト領域に至るスペクトル硬化を検出
- Physical Review Letters:Direct Measurement of the Cosmic-Ray Carbon and Oxygen Spectra from 10 GeV/n to 2.2 TeV/n with the Calorimetric Electron Telescope on the International Space Station 論文
〈関連リンク〉
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