恒星ブラックホールが生み出す“加速器”現象をXRISMがとらえた

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XRISMが恒星質量ブラックホールのそばで広がった暗いX線放射を検出した。ブラックホールのすぐそばで粒子が加速されていることを示す証拠だ。

【2025年4月25日 JAXA宇宙科学研究所

宇宙線は宇宙空間を飛び交う高エネルギーの放射線だが、その起源は宇宙物理学最大の謎の一つとなっている。宇宙線の起源として最近着目されているのが、X線を放射するブラックホールや中性子星と普通の恒星の連星系(X線連星)から光速に近いジェットが放出されている「マイクロクエーサー」だ。このマイクロクエーサーのジェットが“天然の粒子加速器”となって宇宙線の発生源の一部になっていると考えられている。

いて座の方向約20000光年の距離に位置するブラックホール連星「いて座V4641(V4641 Sgr)」では、最近の観測できわめて高エネルギーのガンマ線が検出されている。そのため、この天体は“加速器”としてブラックホール連星の中でもトップクラスの性能を持つとみられるが、粒子がどのように加速されるのかを理解する上で重要なX線での観測データはまだなかった。

V4641 Sgr
ブラックホール連星「いて座V4641」の想像図(提供:JAXA、以下同)

いて座V4641は数年おきにX線バーストを起こす性質があり、2024年9月にもバーストが発生した。そこで、JAXA宇宙科学研究所の鈴木寛大さんたちの研究チームは、日本のX線分光撮像衛星「XRISM」で突発現象を観測する特別な観測時間枠を利用し、バースト発生時にこの天体を観測した。

いて座V4641の光度変動
国際宇宙ステーションに設置されているX線観測装置「MAXI」がとらえた、いて座V4641の光度変動

研究チームはXRISMの軟X線カメラ「Xtend」を使い、いて座V4641のブラックホールの近傍に広がる暗いX線の放射を初めて検出することに成功した。過去に日本のX線天文衛星「すざく」などでもいて座V4641が観測されているが、広がったX線放射は見つかっていなかった。Xtendの広い視野と低いバックグラウンドのおかげで得られた成果だ。

いて座V4641を中心とした半径方向の放射プロファイル
XRISMの「Xtend」が撮影した、いて座V4641周辺のX線画像(等高線はガンマ線放射の分布)と、いて座V4641を中心とした半径方向の放射プロファイル

今回とらえられた暗いX線放射は、ガンマ線の観測から推測されていた高エネルギー粒子の分布よりもブラックホールの近くに集中していた。この結果から、粒子を加速させるメカニズムがブラックホールのごく近くで働いていることがはっきりと示された。

いて座V4641の概念図
X線バースト活動を起こしたいて座V4641の概念図

さらに、今回のXRISMのデータを元にして、この天体の方向から来る背景のX線放射をモデル化し、いて座V4641がバーストを起こしていなかった22年前のある時期にNASAのX線観測衛星「チャンドラ」が取得した観測データに当てはめたところ、今回の発見と同じくらい明るい、広がったX線放射が確認された。これは、過去の予想に反して、粒子の加速が主に静穏期に起こっていることを示唆している。

XRISMは軟X線分光装置の「Resolve」が目玉で、Xtendは補助として使われることが多いが、今回の成果はXtendをメインに用いた初の科学成果だ。今後もXRISMの高感度観測によって、ブラックホール近傍で起こる粒子加速の素性に迫ることが期待できる。

もし、ジェットが出ていない静穏期のマイクロクエーサーで粒子が加速されるのであれば、粒子加速という現象は従来考えられているよりも宇宙の中で起こりやすい現象なのかもしれない。今回の成果は、ブラックホール天体での粒子加速や、銀河全体で宇宙線が生成されるしくみを観測と理論の両面から深く理解するきっかけになるかもしれない。

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