特異なX線連星から吹き出すプラズマの風とブラックホールの運動を観測

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X線分光撮像衛星「XRISM」の観測により、X線連星「はくちょう座X-3」から吹き出すガスや、ブラックホール候補天体に落ち込むガスの詳細な動きが明らかにされた。

【2024年12月5日 JAXA宇宙科学研究所

はくちょう座の方向約3万2000光年の距離にある「はくちょう座X-3」は、大質量星の一種であるウォルフ・ライエ星とブラックホール候補天体からなる特異な連星系だ。連星の一方であるウォルフ・ライエ星は、1年間に地球数個分の質量に相当するガスを放出し続けている。もう一方は太陽の数倍の質量を持つ小さめのブラックホール候補天体(ブラックホールもしくは中性子星)で、元々は大質量の恒星として生まれ、超新星爆発で今の姿になったと考えられている。

はくちょう座X-3の想像図
はくちょう座X-3の想像図。ウォルフ・ライエ星(左)から放出されるガスの中をブラックホール(右)が高速で公転運動する。ブラックホールの周囲には降着円盤やジェットが形成されていると考えられる(提供:NASA's Goddard Space Flight Center

2つの天体は非常に近接していて、ウォルフ・ライエ星から放出される大量のガスの中をブラックホール候補天体がわずか5時間弱の周期で公転運動している。ガスの一部はブラックホール候補天体の重力に吸い寄せられ、太陽が数日~10日かけて放射するエネルギーをほんの1秒で放つほどの強烈なX線を放射する。この強烈なX線に激しく照らされて、周囲のガスは光電離したプラズマとなっている。

はくちょう座X-3における光電離プラズマの形成
はくちょう座X-3における光電離プラズマの形成(提供:JAXA、以下同)

従来は観測機器の限界のために光電離プラズマの運動を詳しく調べることはできていなかったが、非常に高いエネルギー分解能でX線分光観測が可能な日本のX線分光撮像衛星「XRISM」により、こうしたプラズマの運動速度や温度などを正確に求めることができるようになった。

今年3月下旬、普段よりもX線で増光中であったはくちょう座X-3をXRISMで観測して光電離プラズマのスペクトルを調べたところ、ウォルフ・ライエ星から吹き出すガスや、ブラックホール候補天体に落ち込むガスの詳細な動きが明らかになった。

はくちょう座X-3のスペクトル
(下)XRISMの軟X線分光装置「Resolve」が取得したはくちょう座X-3のスペクトルのうち、鉄イオンによるシグナルが卓越する6~8keV(キロ電子ボルト)のエネルギー帯を表示したもの。NASAのX線観測衛星「チャンドラ」のX線分光器「HETG」(上)など従来の機器では検出できなかった様々な鉄イオンの吸収線や輝線が分離されている

はくちょう座X-3は将来、ウォルフ・ライエ星が超新星爆発を起こしてブラックホールとなり、最終的に重力波を放出するブラックホール同士の連星になると予想されている。XRISMの観測データをより詳しく調べることで、そのエキゾチックな天体の形成過程や今後の進化を知る手掛かりが得られると期待される。