可視光線で大規模な変動を示すX線連星

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今年3月に発見されたX線連星が可視光線で大規模な明るさの変動を見せている。0.7等級の振幅を生み出す原因はわかっておらず、継続的な観測が求められる。

【2018年7月4日 VSOLJニュース

著者:磯貝桂介さん(京都大学)

2018年3月11日、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」に搭載された全天X線監視装置MAXIが、X線で徐々に増光する天体を見つけました。可視光線やX線での追観測によると、この天体の正体はブラックホールを主星に持つX線連星である可能性が高いとのことです。増光から3か月以上たった現在、このX線連星が可視光線で大規模な変動を示しています。

X線連星とは、その名のとおりX線で明るくなる連星のことです。突発的に明るくなるためX線「新星」とも呼ばれていますが、いわゆる新星爆発とは別の現象です。

主星はブラックホールや中性子星のような非常に重い星で、伴星は通常の恒星です。連星間距離が十分小さいため、伴星表面のガスが主星へと流れ込み、降着円盤を形成します。降着円盤にガスが十分蓄積されると、円盤不安定性によって円盤は突然明るくなり、大量のガスが主星へと落ちていきます。「ししおどし」にたとえられるこの理論によって、円盤は明るい状態と暗い状態を遷移します。基本的には矮新星(白色矮星を主星に持つ連星)のアウトバーストと同様ですが、X線連星の方が主星が重いため、解放する重力エネルギーも大きく、X線で明るく輝きます。

しかし、アウトバーストの詳細な振る舞いについては未だに謎多き天体です。たとえば、2015年にアウトバーストを起こしたX線連星「はくちょう座V404星」の観測では、未知の円盤不安定性の存在が示唆されました(参照:「ブラックホール連星はくちょう座V404星がアウトバースト」)。

今回増光した天体は、発見したX線観測装置MAXIの名前を取ってMAXI J1820+070と名付けられました。報告後、X線で明るくなる5日前にはすでに可視光線で明るくなっていたことがわかり、一番最初に増光をとらえていたサーベイプロジェクトASAS-SNが付けた「ASASSN-18ey」という名前でも呼ばれています。X線と可視光線での増光のタイムラグは、増光が円盤外側から始まったことを示唆しています。X線は、重力ポテンシャルが深い(つまりブラックホールに近い)円盤内側で生成されるため、このような差が生まれたと考えられます。

ASASSN-18ey
3月17日に撮影されたASASSN-18eyの観測画像(撮影:清田誠一郎さん)

アウトバーストを起こす前のASASSN-18eyは、可視光線で19.4等(g等級)の暗い天体でしたが、増光開始から20日ほど経った3月24日には11.7等(V等級)まで増光しました。これは、これまでアウトバーストを起こしたX線連星の中で5番目に明るい数字です。明るいおかげで、より詳細な観測が可能なため、世界中から注目が集まりました。

その後、ASASSN-18eyは大規模な変動を見せることなくゆっくりと減光していきましたが、5月下旬から次第に小さな可視光線での変動を見せ始めました。その変動は徐々に大きくなり、6月4日には周期17時間、振幅0.3等のはっきりとした振動になりました。

この可視光変動の正体は、今のところ「スーパーハンプ」だと考えられています。スーパーハンプとは、降着円盤が伴星の重力に振り回され、楕円変形することで発生する光度変動です。周期は連星の軌道周期より少し長い程度です。矮新星ではよく知られた現象で、一部のX線連星でも同様の現象が観測されています。スーパーハンプが発生すると、一時的に天体の平均光度が上昇することが知られています。今回の天体でも、実際に光度の上昇が確認されたため、この変動がスーパーハンプであると解釈されました。

しかし、これまでのX線連星のスーパーハンプとは大きく異なる点があります。それは変動の大きさです。これまでX線連星で観測されてきたスーパーハンプは、振幅が0.1~0.2等程度でした。対して、ASASSN-18eyのスーパーハンプの振幅は、6月29日時点で、最大0.7等にまで成長しました。0.7等の差は、明るさでは1.9倍の増光を意味します。これは、あまりに大きな差です。

なぜ、これほど大きなスーパーハンプが観測されているのか、理由は不明です。もちろん、スーパーハンプとは全く別の現象である可能性もあります。いずれにせよ、この大規模な変動現象の詳細な観測は、ブラックホール周辺での物理現象の解明に繋がることでしょう。

6月29日時点で、このX線連星は13.4~12.7等(V等級)の間を大きく振動しています。これは口径20cm程度の天体望遠鏡であれば眼視観測が可能な数字です。ぜひこの機会に、ブラックホール周辺での大規模変動を目撃しておきたいところです。

今回紹介した天体の座標は以下のとおりです。

赤経  18h20m21.9s
赤緯 +07°11′07.3″(2000年分点)

ASASSN-18ey
ASASSN-18eyの位置。画像クリックで星図拡大(「ステラナビゲータ」で星図作成)